幸先スリル

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 気がつくと映画が終わり、あたりが明るくなった。ずっと行動を監視していた淳は人混みに混じった晴人と目が合う。  あっ、という顔をした晴人は磁石の同極が反りあったように目を逸らし、慌てたように出ていこうと人を押しやっていた。  な、何だよ。まずいって顔だよな……。  急に苛立ちが込み上げ、後を追ってしまった。 「あ、待ってお兄ちゃん!」  すると、離れないように必死な彼女の発した声が響いた。  えっ、お兄ちゃん?  耳を疑りながら、もう一度目が合った。晴人は照れ臭そうに顔の前で手を合わし頭を下げている。  拍子抜けして、目を丸くしたまま見つめ返す。胸の奥がじんわり熱くなって、嫉妬した自分が恥ずかしくなった。それと同時に笑いが顔を緩ませる。  淳は軽く手を振って、さっと会場を後にした。
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