ぼくが 持っていく

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 テンボは、俊樹が隆につけたあだ名だ。 「天然ボケの略だよ」  俊樹が、隆にその話をした時、俊樹はバカ笑いしていた。  でも、隆にとって、俊樹は小学校から親友だ。  俊樹のバカ笑いが、本当の意味での笑いでないことはわかっていた。  隆は、小さい時から、思ったことが口から出てしまう癖があった。  それも、そのときに限って、かならず言い間違えてしまう。  どう直そうとしても、この癖は直らなかった。  でも、俊樹が、いつもバカ笑いをしてくれるから、その場がおさまった。  面白いギャグで終わっていた。  隆は、いつもつくり笑いでその場を乗り切った。  クラス中のみんなが笑っていた。  もう、高校3年の夏になる。  受験をひかえて、机に向かって勉強している生徒もいる。  クラスの端に集まって話をしている生徒もいる。  でも、今はみんなが笑っていた。  教室の後ろの席で、机に座っている飯塚美佐子も笑っていた。  美佐子は、いつも、1人で絵を描いている。  机で、色鉛筆を使って、メッセージカードに絵を描いていた。  でも、今は、笑いを抑えきれずに、下を向いたまま、クスクスと笑っていた。  隆は、顔だけ笑いながら、そのことに気がついた。  同級生の誰かが、何かを言っている。  隆は、上の空で聞きながら、美佐子を見ていた。
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