ぼくが 持っていく

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「昔、おじいさんに、絵を描きなさいって言われたことがあったんだ」 「飯塚さんのおじいさん」 「ちがうよ。本屋さんのおじいさん」  美佐子は、ほほえみながら遠くをみていた。 「わたしんち、お父さんが病気だから。絵をかいて届けてるの。もう。意識ないし見れないけど」 「そうだったんだ。ごめん」 「いいのよ。話せる人いなかったから」  美佐子が、ちょっと隆を見て、下を向いた。 「おじいさんがね。生きるのには、食べ物だけじゃない、いろんなものが必要だからっていってね。わたしが、会いに行って、いっぱいとどけなさいって。わたし小さかったから、言われたとおり毎日絵をかいて、それを届けてたの。でも、お父さんの病気はどんどん悪くなって」  隆は、本当に自分がはずかしくなった。  美佐子が、毎日こんなに必死に絵を描いていたのに。  自分は、そんなことも知らずに。  ただ、毎日に笑ってごまかして。
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