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「……全然駄目だな」
大袈裟な溜息と共に頭を抱える。
「だから何度も言ってーーーー」
「あー、はいはい。
それも聞き飽きたから。
何度も言ってるけど、お前を降ろすつもりないよ。
だからいい加減、本腰入れてやれよ」
逃げ出したい私と、
本気にさせたい彼。
どこまで行っても平行線。
無駄な時間が過ぎて行く腹立たしさに、つい爪を噛むと、彼はおどけた表情でそれを制した。
「ごめん、ちょっと当たっちゃったな。
ほら、美央(みお)じゃなきゃ、俺のやる気が起きないからさ」
前田拓郎(まえだたくろう)。
彼は、私が所属する劇団で作演出から役者までこなす。
おまけに背も高くてルックスも良く、まさに非の打ち所がない男だ。
芝居のこととなると多少向きになるけど、……根本は悪い人じゃない。
「なぁ、美央……」
制した手を口元に引き寄せて、拓郎は淡い笑みを浮かべた。
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