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指に柔らかな唇が当たれば、湿り気を帯びた息がかかる。 嫌悪感というのは、心よりも身体の方が素直に反応するものなのかも知れない。 感情を押し殺してその行為を耐えるけれど、指を撫でる温もりにザワリと皮膚が震えた。 「……もう全部終わりにしたいの」 どうして、こんなにも彼を嫌いになってしまったのだろう。 役を上手く演じられない焦りと、それでも私を降ろそうとしない拓郎への怒り。 いつも利き過ぎるこの部屋の冷房でさえ、神経を逆撫でる。 「拓郎の書いた本にも心が動かない。 芝居から気持ちが離れてるのよ」 とにかく拓郎から離れたい。 全てが耐えられなくて本音を漏らすと、彼の顔から笑みが消えた。 怒らせたって構わない。 ギュッと眼を閉じると、頬を柔らかく包む温かな手のひら。 予想とは違う反応に顔を上げると、絡め取られた視線の先で真っ直ぐな瞳が強い光を放った。
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