17人が本棚に入れています
本棚に追加
チリンチリン。
雨合羽を翻らせながら、自転車が猛スピードで私の脇を駆け抜けていく。
直後に響いた凄まじいブレーキ音に顔を上げると、辛うじて体勢を維持した自転車の男が罵声を飛ばした。
「すみ……せ……」
激しい雨音の中で微かに聞こえた覇気のない声。
煙る視界に見えるのは、傘も差さずにずぶ濡れになったもう一人の男。
自転車の男は急にこちらを睨み付け声高に何かを叫んだけれど、興奮しているせいか酷く早口で聞き取れない。
自転車の男は、立ち尽くす男の肩を思い切り突いて、更に暴言を吐く。
「こんなところで痴話喧嘩してんじゃねぇぞ、こら!」
……そっか、勘違いされたんだ。
他人だと言い出せないまま、苛立たしげにその場を立ち去る自転車を呆然と見送った後で。
ーーーー私はその横顔に釘付けになった。
最初のコメントを投稿しよう!