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いくら経費の無駄遣い課の人間だと影で罵られようとも、特に気にはしない。それはあくまで表向きの顔であり、カムフラージュにしか過ぎない事柄だからだ。
俺達【色公】が関わる本来の裏の顔とでも呼ぶべき仕事は、普通の公務員には到底理解しがたい種類のものだ。
その業務内容が、表の世界へと明るみになることは決してない。恐らくこの先もないだろう。
こういうことが国家公務員の仕事として割り当てられること自体、世間様の知るところになれば大問題となり得る。きっと、国会で紛糾議題として取り上げられるに違いない。
色公とは略語である。何の略語かと問われると、少しばかり話が長くなる。
四国には、四国八十八ヶ所の札所と呼ばれるお寺が点在する。その八十八ヶ所のお寺を巡りお参りする人のことを、お遍路さんと呼ぶ。
今から約千二百年前に、弘法大師空海と呼ばれる一人の徳の高い僧がいた。その空海が歩いて通ったとされる道を辿って八十八ヶ所全てに赴くと、願い事が叶うという言い伝えがある。
どこの道を辿っても基本的に良いらしいが、空海が通ったとされる道とは逆の道順を行くと、通常の行程よりも更に大変になる分、御利益が増えるとも伝えられている。
俺達の課の名称は、四国八十八ヶ所環境安全対策保全課という、少し聞きなれないものである。どういった業務内容かというと、四国八十八ヶ所に纏わる環境保全の相談事案を検討して、予算に見合う範囲内で改善していくというものだ。
八十八ヶ所探索ルートにおける山道整備の手配、参拝客の休憩所設置などのサービス改善公共事業、寺の改修工事補助申請の手続き等々、八十八ヶ所のお遍路参りに関する一切の事務内容を一手に担うのが、俺達の仕事なのだ。それが、表向きの仕事。
あまり予算がおりない俺達のこの課は、他の課に比べると需要も少ない。なので、仕事内容も他に比べるとすこぶる楽だったりする。繰り返すが、表向きは、だ。
八十八ヶ所の八十八という文字を、八足す八と変換させた時の答えは十六となる。その十六という文字をアラビア数字に変えて無理矢理読んで、色物の色と誰かが呼び始めたのが、そもそもの始まりらしい。
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