第1章

3/14
前へ
/14ページ
次へ
   色物という言葉の元々の語源は、寄席において、落語と講談以外の芸のことを芸に色を染めるという表現をするところからきているらしい。俺達が揶揄されている色物の場合は、現代語訳で分かりやすく言うならば、変わり者という言葉で簡単に代用出来ると思う。 色物公務員。イロモン公務員。略して、色公という訳である。要するに、変わり者の公務員。公務員らしからぬ公務員という、侮蔑の意味が込められているのだ。 そう言われても仕方がないくらいの仕事量だし、全国でもそんな課があるのは、四国ぐらいなので、そう呼ばれることにはもう慣れた。  特に、ここ高知県のこの課の待遇は、四国の他の三県に比べると随分と悪いらしい。香川県への臨時出張の際、あちらの同じ名前の課の職員から聞かされ、発覚した事実だ。  れっきとした国家公務員であるけれど、庁内でうちの課は、人材の墓場若しくは経費の無駄遣い課とまで酷評される始末である。 お遍路参りの需要が高まれば、必然と県にとって潤うことは間違いない。だから、もう少しうちの課に予算を下ろしてくれたら良いのにと、キンキンに冷えた麦茶を飲みながら染々と考える今日この頃の俺だ。 「道頓堀君、仕事だよ」  金剛寺課長が、孫の手を右肩に押し当てながら気怠そうに手招きする。  金剛寺盆吉、五十九歳。既にひ孫がいるという。どういう経緯でもってそうなったのかは知らないが、自分が彼のような名前を親につけられなくて良かったと心底思う。 「はぁ。どっちのっすか?」  八月初旬。エアコンのないこの課は、地獄と化している。経費の無駄遣いだとでも何でも言ってくれて構わないから、とっととエアコン入れてくれよと思うこと早一年。お陰で、間に合わせの冷却グッズがどんどん増えていく。 わざわざ課長のデスク傍まで行かなくても、元々資料室を改造しただけの狭い僻地課だ。十二分に聴こえるので、あえて腰を上げない。余分な体力を消耗したくない。  そんな次世代型ゆとり人間代表と言っても過言ではない俺の慇懃無礼な態度にも慣れたのか、はたまたどうでも良いのか。手招きしていた手を止めて、愛用のボカロのマグカップに入れた特保のお茶を啜った後、全然似合ってない銀縁眼鏡のズレをくいっと直しながらハゲ課長が俺に告げる。 「えっとねぇ、オカルトの方。明後日、○△番札所行ってきて」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加