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「無理っす。だって、土曜日は昼間、サッカーの大会ありますもん。いや、っていうかおかしくないっすか?交代制なんだから、今度は鬼頭さんの番の筈だと……」
明らかに難色を示す俺を宥めるかのように、課長が猫なで声で事情を説明する。
「それがね、今晩から鬼頭さん、夢の国へと行ってくるらしいんだよ。ツアーで行くらしくて、キャンセル料払いたくないって言うもんだからさぁ。ね?分かるでしょう、道頓堀君」
「却下。全く、分かりません」
先月の臨時出勤は、月の四分の一だった。今月は、お盆もあるから、平月よりもっと仕事が増える筈だ。他人の持ち分まで一々代わっていたら、身体が潰れてしまう。
丁度そこへ、外回りから帰ってきた張本人が、白の上品なハンカチで額の汗を押さえながら室内へと入ってきた。
鬼頭美姫、二十四歳。
アイドルでもおかしくないくらいの可愛さと、東大卒という頭の良さを兼ね備えた才色兼備の女性だ。
何故、東京都庁からわざわざ高知県庁にやってきたのかと、他の課の人間達から好奇の目に晒されている。ここにいる課の人間は、理由が分かっているだけに、何とも思わないけれど。
白のブラウスにタイトなグレーのスカート。少し高めのヒール靴。顔の華やかさに似合わず、いかにも公務員らしいシンプルな服装だ。
抜群のスタイルでメリハリがある。つんと上向いた大きな胸に、きゅっと引き締まったお尻。思わず手を回したくなるくびれまくった腰。
あどけなさが残るキュートな顔と、そのアダルトな体形とのアンバランスさだけは、この課における唯一の眼福だ。
暑さで死にそうな日が続くせいか、彼女が目の前をうろつく度に、邪なビジョンが頭を占拠する。オスは死ぬ前に子孫を残したがるというが、ひょっとして今そんな心境なのだろうか。
「鬼頭さん。明後日の封印は、絶対に代わりになんて行きませんからね」
「貴様に断る権利などない」
予想通り、間髪入れずに辛辣な言葉が帰ってくる。
毎回思うことだが、そのアイドル顔で彼女曰く壬生の狼喋りというやつは、ちぐはぐすぎてつい顔が緩むから勘弁して欲しい。別に萌えている訳ではない。似合わなすぎて、嘲笑しそうになるだけだ。
いくらその手の乙ゲーにハマっているからと言っても、リアでその喋りはイタすぎる。恵まれた容姿がパーだ。ハマった原因は、金剛寺課長にあるのだけれど。
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