蒼いルビー

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ルーンの不思議な旋律にあわせ、カミラクの白く華奢な肢体が暗闇に舞う。 その周りだけを星明かりが照らし、まるでスポットライトのよう。 「なぁ、これは一体……」 遠慮がちにマリクが聞いてきた。 これはカミラクの個人的な問題。 けれども、マリクとて今では私達の仲間。 ならば、知る権利もあるだろう。 「カミラクはね、ある部族の巫女の末裔なのよ。 でも、その部族はカミラクが幼い頃に滅んだ。 だから、カミラクは部族の掟や仕来たりに囚われない自由の中にいる。 でも、カミラクは部族の行っていた儀式の重要性を知ってるから、いくつかの重要な儀式は、一人でやり続けてるのよ。 ほら、見てみなさい」 言いながら指し示したのは、魔方陣の中央に鎮座する件のルビー。 深紅の輝きを発するこの石は、情熱の炎にも例えられる。 しかし、その石は少しずつ輝きを変えていく。 青く、蒼く……。 カミラクが舞う度に紅から蒼へと変わっていき、ついには、蒼い輝きを発するようになる。 通常、ルビーは紅い輝きを持つもので、その他の輝きを持つものは、サファイアと定義される。 しかし、この蒼い宝石は間違いなくルビー。 ならば、これは『蒼い紅玉』とでもいうべきか。 情熱を"蒼"という静寂で包みこんだ奇跡の石。 それが意味するは調和。 各々が熱い思いを持ちながら、それを爆発させるのではなく、胸のうちに持つ。 熱い思いをぶつければ争いとなる。 されど、各々がそれらを持たなければ、世界はつまらない。 争うことなく、各々が情熱を燃やす世界。 カミラクのいた部族はそんな世界を願って、滅んだ。
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