【始動編・ゲームの世界が壊れる刻】

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【始動編・ゲームの世界が壊れる刻 第0章】       SCENE Ⅰ   始まりは、雨音と共に…。 20XX年 十二月上旬 ある日の夕方。 東京都の板橋区と練馬区に掛かる地下鉄の駅、〔小山向森〕。 その駅の3番線と4番線に挟まれたホームを、青い制服姿の若者が二人並んで歩いている。 東から西側へと、見回る様に歩く二人。 その二人を背後から見て、右側の若者が。 「ふぁ~、もう眠いねぇ」 と、軽く愚痴る。 すると、平行して左側を歩く、少し背の高い若者は。 「ま、それだけ平和な証拠だよ」 と、軽く返した。 駅のホームを歩く二人は、数分前に行った磁力電車が抜け出した後。 勤務時間内の最後に巡回を・・と、ホームを見回っているらしく。 二人の制服は、改札に居る駅員と似たもので在った。 今日も、この‘小山向森駅’に勤める監視整理員の二人。 嵩稀(たかぎ)と獅籐(しとう)は、東側の階段より通称:〘M-T〙《マグネットトレイン》と呼ばれる地下鉄乗り場のホームを西側の階段まで渡り終えると、帰る為にホームを後にした。 二人は日給月給の契約作業員として、この監視整理員をしている。 今日は、日勤。 朝の7時から、夕方の7時まで。 日給1万のアルバイトだった。 何故に、この駅に常駐の監視整理員が・・と、思われるかも知れない。 然し此処は、都内地下鉄の1駅だが。 埼玉県北部側と西側の県境や埼玉県西南部から来る私鉄が乗り入れて、“地下鉄METRO”として走る電車が交わる駅でも在る。 そして、新たに大規模な再開発が今も進む、東京都内の五大駅の一つ〔IKEBUKURO〕。 小山向森駅を通る地下鉄電車は、この巨大なステーションに直通直結して。 その間は二駅と、非常に利用のし易い立地と成っていた。 その為、小山向森駅も開発が更に進み、移り住む人口が年々に増加。 今では地下鉄の駅の中でも、年間利用客数が10指に入るぐらいに多く。 数年前に地下駅構内を拡張して、ホームが8列と成った。 ま、乗り降りする客が増えれば、逆にトラブルも増加する。 東京駅や新宿駅と云った五大駅を含む規模の大きな駅には、鉄道警察から交番まで揃っているのだが。 まだ、其処まで大きくないし、地下鉄の駅と云う事で。 子会社化した警備会社が、二人の様な職員を雇っている現状で在る。 そんな二人も、仕事が終わる時間だ。 さした異常も無いので、持ち場から駅構内を巡回して駅員事務室に戻り。 助役さんに報告してから更衣室へと、普段通りの終業間際の行動を繰り返そうとする。 ホームから階段を上がり、改札ではお客さんを優先に通した後で、駅員に挨拶をして改札を抜け。 構内とゴミ箱などを見て回ってから、駅員が詰める広い事務室に入る。 嗄れ声の初老になる助役に顔を見せれば。 「お疲れ。 何にも無いでしょう? もう交代の二人が来たから、上がって下さい」 と、丁寧な言葉を貰える。 助役さんに挨拶の後、他の駅員さん、交代で来ている休憩中の同僚にも含めて挨拶をしながら奥に行けば。 其処は、職員共用の8畳の更衣室。 ホーム拡張時に、此方も新装しただけ在り。 バイトの使うロッカーまで小綺麗だ。 貸与されている上下の青い制服を脱ぎ始めた二人は、ロッカーも奥の隣同士。 帽子を取った少し背の高い獅籐が、横のほっそりとした嵩稀に。 「タカさん。 明日も、仕事?」 「いや、明日から2連休だよ。 シトさんは?」 「同じく休み。 じゃ~明々後日は、二人で当務かな?」 「あ~、明々後日って、金曜日だもんね。 多分、そうだ」 アルバイトと云うか、パートに成るのだが。 金曜日から月曜日の朝までは、毎日が24時間の仕事で。 日当も約倍額に成るから、一回一回が稼ぎになる。 上着を脱いだ辺りで、長めに伸ばした髪型を気にする獅籐が。 「タカさんは、連休どーするよ」 と、言い。 問われた嵩稀は、私服のジーンズに穿き替えなから。 「ん~、家で‘F・S’(ファイナル・ステーション)をやってるよ。 今日、新しいゲームが出るから」 「カァーっ。 タカさんも好きだねぇ~。 少しは、外に出ろよぉ~」 「いやいやぁ~。 今は、時間を外で使いたくない。 そう云うシトさんは? また音楽ですか?」 「そうですよ~っと。 今週は、ちょっと大きいハウスで、ライブが在るからさ。 間違えない様に、練習しないと」 「ふ~ん、お疲れ様です」 こう言った嵩稀は、先に着替えてロッカーのドアを閉めた。 直ぐに、獅籐も着替え終えた。 この二人の姿は、同じ年頃の若者ながら対照的だった。  ちょっと細身の若者は、嵩稀 皇輝(たかぎ たかてる)と言い。 ダボダボしたハーフコートに、ほっそりとした足に似合うスキニージーンズを穿く。 24歳の彼は、 “何処にでも居そうな、フリーターの若者” と、云う感じ。 だが、大きく澄んだ瞳と長い睫毛が、知的でサッパリとした雰囲気を持って、不思議と品の良さを引き立てる風貌をしている。 この若者の趣味は、ゲームと旅と小説書き。 ネットの中では、〔妄想法師〕と云うペンネームで、推理小説から官能的な小説まで作り。 特に官能小説では、シリーズ物を電子書籍として出版した事が在るとか。 一方、少し背の高い若者は、獅籐 雄助(しとう ゆうすけ)と云って。 年は、嵩稀より一つ下の、23歳。 ちょっと鋭い眼がギョロっとした、面長で鼻も高く。 ‘主張の利いた’ そんな顔をする。 また、ロッカーに備えるミラーで、前髪を整える様子も彼のクセ。 やや裾が広い、ファッショナブルなパンタロンジーンズを穿き。 紫紺のコート風ジャケットを着ている派手さといい。 アマチュアのV(ヴィジュアル)系ロックミュージシャンと云うのだから、頷けなくも無い。 彼のユニットは、インディーズとしてそこそこの知名度が在り。 ネットの音楽配信サイトでは、千人ぐらいの固定ファンが居ると云う。 この現場で知り合った二人は、年が近いと云う事も在り。 獅籐の方から語り掛ける事で、互いに遣りたい事を話す仲になった。 追う方向性が違う為に、二人で遊ぶことは少ない。 メールやSNSで連絡を取り合い。 それぞれが活動し、お互いに相談し合いながら夢に向かっていた。 さて、獅籐はこの駅から池袋に出て、渋谷方面に帰るのに対し。 嵩稀は、この駅周辺に住んでいる。 いつものように助役さんの居る机に立ち寄り。 ロッカーの鍵と報告書代わりと成る日誌を渡して帰る。 今、夜の7時を回り。 私服姿で、二人がホームに居る。 獅籐の乗る〔M・T〕(マグネット・トレイン)を待つ間に、雑談をするつもりだった。 さて、冒頭にも〔磁力電車〕と書いたのが、今の電車の最新型機種で在る。 略称を〔M・T〕と云い。 これは、地上路線・地下鉄路線のハイブリッド機能を持つ、リニアモーターカーの事だ。 特殊な触媒と成る溶液を開発した事により、磁力を高めて電力消費量を抑える事で。 大幅なコストダウンを実現した、世界でも最もコストパフォーマンスに優れた車両で在る。 この電車の登場で、他に変わった点として。 元のレールが敷かれた‘線路内’が、今は‘コース’と云う言い方へ変わっている。 また、加速性からスピードに至り、走行中の状態が以前の電車とは全く違う為。 過去に安全対策の一環として各駅ホームのレール際に在った、中途半端なホームドアは、既に姿を消していた。 では、どうなったのかと云うと。 今や〔M・T〕の走る全ての地下鉄は、磁力の安定や乗客の安全を考慮して。 線路際の仕切りドアが天井までピッタリと閉まる物、‘ガードシールド’に成った。 この‘ガードシールド’は、‘防御壁’の名前に恥じず。 防弾・耐刃の性能を有して、更に耐衝撃性や絶縁機能もしっかりしている。 詰まり、日本ではまだ事例が極少数だが。 爆弾テロや毒ガスも、車内・車外どちら側で起こっても、この扉さえ有れば片方には影響を及ぼさない。 自動小銃や50口径ぐらいまでの拳銃も、シールドの性能で通さないらしい。 最近、アジアの国やアフリカの新興国先進都市で、〔M・T〕からこのシールドまでの導入が決まったとか。 その所為か、本社の株は高水準を維持し、その導入に合わせた関係国との親善外交が、秋から何度もニュースに上がっている。 そんな事で名前が売れるこの新型車両を使う為に、都内各駅も広く綺麗に改装され。 どのホームの真ん中にも、朝の6時から夜の11時まで営業するコンビニまで出来た。 当然、この駅でも横幅が長く、ホームを無理に狭くしない配慮も在りながら。 普通のコンビニ店並となる敷地で、中に立ち食いそば屋も有る其処で、スナック菓子を買った獅籐は、嵩稀と分け合いながら雑談をするが。 次第に、ホームに客が増えて。 ― ホームでお待ち頂くお客様に、お伝え致します。 まもなく、2番線に〔マグネステアー〕が到着いたします。 ホームドアに寄り掛かったりしないよう、お願い致します。 ― と、電車が来る前の決まったアナウンスが流れる。 商標登録された名前となる〔マグネステアー〕は、地下鉄路線専用の磁力電車の事らしい。 乗り入れには使われないと云う事だ。 「お、やっと来なすった」 カバーに入れたギターを背にした獅籐が、深いブルーカラーのグラス(ファッションメガネ)を掛けて、ホームの奥を見た。 もう、別れる頃と、嵩稀が先に。 「シトさん、またね」 「あ、タカさん。 今度、どっかで呑もうよ」 「いいけど~。 セッティングは、シトさんに任せるよ」 二人の会話中に、前車両が美しい流線型の〔マグネステアー〕と云う名前の列車が入ってきた。 音も静かで、停車も自動運転で乱れず。 シールド、車両ドアと開けば、広々とした車内に師籐が入り。 嵩稀は発車まで獅籐を見送らず、お互いに軽く手を上げ合って、一人改札へとまた戻って行く。 嵩稀・・いや、此処からは名前にして…。 皇輝は、改札を抜けて3番出口から外へ。 小山向森駅を出ると、そこには大繁華街が広がっていた。 駅から環七方面に向かう要(かなめ)通りは、大規模に拡張されていて。 レンガ地の歩行者通り沿いには、飲食店やらお洒落なショップが犇いていた。 その明かりの強さに、歩行者道路の街灯が霞むほどである。 皇輝は、環七方面に向かい。 環七方面の道路手前に在る、ゲームショップに入った。 然し、ゲームショップなのに、店内には怪しいピンク色のライトが灯り。 店の入り口には、円筒形の透明なケース中にブルーのジェルが入っていて。 その中を‘人面魚’を彷彿とさせる魚が泳いでいた。 「………」 その人面魚が客となる皇輝に向くので、思わず皇輝も立ち止まって見返した。 眼が合い、人面魚が口を開くと。 - アイシテルわ - 男の声で言われた。 これはみな、店長の趣味で在る。 無言で自動ドアを開いた皇輝は、 「こんちわ~」 と気楽に声を掛けながら奥に向かうと。 「あ~ら、いらっしゃーい」 様々な年代のゲームが所狭しと陳列された店内の奥から、太った天辺禿げオヤジが顔を出す。 「マスター。 予約したゲーム、入ってる?」 「はいはい、取ってあるわよ~」 このオヤジ、どうもオネェ口調が抜けない。 この人物、なんでも元はオカマバーの雇われ店長だったとか。 然し、テッペンハゲが酷くなり、女装して店に立てなくなったから、好きなゲームショップを開いたとかヌカしている。 「マスター、取ってあるのは、当たり前だよ。 前金払って、予約してるんだからさ」 皇輝が言うと、妙に意味深な流し目をよこすオヤジ。 「あら~、皇輝ちゃんだって、このゲームの前評判や人気は、とぉ~っても知ってるでしょ?」 こう言ったオヤジは、今度はカウンター代わりのショーケースに前屈みと成り。 「実は、ネ。 此処だけのハ・ナ・シ」 “倍額を払ってもいいっ! 在るなら売ってくれっ!!” 「って、お金を叩き付けて言ったお客も居るのよぉ。 ど~しても欲しいからって、ネ」 何故、二人しか居ない店内にて、耳打ちする様な小声に成るのか。 皇輝には、その理由がサッパリ解らないが。 「へいへい、ユーワクに負けないでくれて、どーもアリガトさん。 だから早くしてよ。 外の空の雲行きが、ムチャクチャ怪しいんだからさ」 皇輝に急かされたオヤジは、内側の棚に手を突っ込みながら。 「はいはい、焦らな~いの。 どうしてこ~も若い子ったら、イクだけイっちゃう性格なのかしらね~」 と、何だか卑猥に感じる物言いだ。 むやみやたらに必要の無い言葉が混じってる・・と、反応するのも今更に面倒臭い皇輝。 (どうゆう言い方だよ) 常日頃からの経緯も含めて呆れた皇輝は、ゲームを取り出す店長を見守った。 「はい、〔迷路~ラビリンス~〕ネ」 店長は、ちょっと薄めの雑誌のようなパッケージの物を、包みもしないで差し出す。 「OK。 アリガトさん…ん?」 受け取った皇輝は、そのパッケージの絵を見て眼を奪われた。 すると、店長のオヤジも反応して。 「ネェ、皇輝ちゃん。 このカバーの絵、どぉ~こかで見たことの在る絵、よネ?」 「あ、ん…。 絵と云うか、この館が・・ね」 「そうそう」 パッケージには、重々しく垂れ込めた雷雲に紫掛かった稲光の走る、そんなミステリーと云うかホラー的な雰囲気の漂う空模様が描かれ。 そんな空模様の下に、不気味な洋館が入り口を片方だけ開いている絵が…。 「でも、何所で見たか・・イマイチ覚えてないのよネェ…。 皇輝チャン、解る?」 「いや、覚えないなぁ」 「だよね~」 然し、目的のモノは手に入ったと。 「ま、いいや。 マスター、それじゃ俺は帰るよ。 雨が降りそうだし、早くゲームを遣りたいから」 と、手にしたゲームを翳す皇輝。 すると、店主はその醜い身体をすぼめて。 「あらら~、もう帰るの~? 何なら‘ロハ’で、ワタシもヤラれていいのよぉ~」 気味悪く色めき立った視線をよこして、自分を指差したオヤジ。 「キモイ、要らん」 踵を返しつつ、短く言った皇輝。 馬鹿げた会話は、そこで終わった。 外に出た皇輝は、来た歩行者道路を逆に戻り。 駅の入り口に近付いてから、途中で横に抜ける脇道に入る。 そして、其処から街の住宅地やマンションが広がる奥に、どんどんと歩いて行った。 皇輝の家でも在るマンションまで、駅から徒歩で数分程か。 24歳の青年が、既に‘マンション’で一人暮らしとは恐れ入る。 着いたマンションは、数十階建ての立派なマンションだった。 この建物の中で、3階からの上の部屋の一室が皇輝のものだ。 セキュリティーゲートの強化ガラスドアを、入居者のみが知るパスワードで開いて抜けた後。 もう一つの内側ガラスドアは、生体認証で開き、マンションの中に入る。 入った先はエントランスとなり。 噴水が出ているのが見えるが、これはホログラフィックス。 映像のみの噴水脇を抜ける時に、知った顔の管理人に会釈だけして、エレベーターの在る方に抜けた。 皇輝がエレベーターに向かったのは、乗る為では無い。 歩行者道路からの入り口は、実は裏口なのだ。 このマンションは、高さこそ数十階しか無いものの。 その一階と二階に入る設備の充実度は、時々テレビでも放送される程。 では、何処が有名なのか、と云うと…。 エレベーターの脇から表側に抜けると、立派なエントランスロビーが在り。 常にコンシェルジの居る受付前に出る。 ロビーの左側に、入居者のみが利用可能なダイナーが在り。 珈琲やパン類は、テイクアウトが可能。 他、高級感溢れるネットカフェ、生鮮食料品まで扱う100均ストア、蔵書多数の美術館と併設の図書館まで一階に在り。 更には、表側の国道沿いには、プロムナードが存在。 緩やかな上りの道は、中は見えないが二階のジム、健康ランド、室内プールを囲む様にして、周回する形で設置されていた。 さて、ダイナーで珈琲を買った皇輝は、表のエレベーターに向かう。 すると…。 「あら、皇輝クン。 今、お帰り?」 と、女性に声を掛けられた。 振り返って見れば、このマンションの住人で。 自分と同じ階にて住む部屋が近い親子で在った。 まだ、幼稚園児と云う娘にまで挨拶された皇輝は、逆に笑いかけて。 「こんばんわ」 二人を交互に見て言ってから、マイバックを片手に下げた母親の方を見て。 「買い物から、今、お帰りですか?」 「えぇ、向こうのスーパーに行った帰りなの。 実は、知り合いの奥さんと一緒だったから、こんなに遅くなったのよ」 監視整理員と云う仕事柄、他者への人当たりは心得た皇輝。 ゲーム遣りたい気は有れど、それを露わにする性格でも無く。 「なるほど。 そういえば、外。 雨が降りそうですね」 「ホ~ントよ。 主人ったら、また今日も遅いのかしら…。 こんな日ぐらい、早く帰ればいいのにねぇ」 「ですね。 でも仕事ですから、仕方無いですね」 「そうね。 ちゃんと働いてくれてるから、日頃から感謝してるのよ。 だから、夕飯を早く作らないと」 「それだと、これからが奥さんのお仕事ですね。 お疲れ様です」 「あら、そ~言ってくれるの、皇輝クンだけよ。 ありがとね」 と、母親も喜ぶ。 普段の人付き合いが非常に希薄な皇輝にしては、この母子とは妙に仲が良く。 時折、おかずを貰ったり、貰い物を分け合う関係だった。 来たエレベーターに乗って来た客を出してから、中へ乗る皇輝達。 三階までは、ほんの数秒。 先に親子を降ろした皇輝は、後から廊下に出て。 「じゃ、ね」 笑顔が可愛い女の子と手を振り合ってから。 「では」 と、母親と会釈をして別れる事に。 このマンションの五階までは、上の高層マンションを支える土手に成るから、結構広い。 また、この三階には、分煙ルームに公衆電話。 他、ジュースやお菓子なんかを売る自動販売機が置かれた、休憩可能な共有場も在る。 その外、その日のニュースをチェック出来る、大型モニターも壁に嵌った形で在った。 人が間近に留まると、勝手に流れるセンサー対応だ。 さて、親子と別れた皇輝は、エレベーター前から右の廊下を行く。 高級ホテルの様なクラシカルな雰囲気の廊下には、踏み心地の良い絨毯に似せたシートが敷かれ。 その上を歩いて行けば直ぐ左側に、透明な壁にて仕切られた分煙ルームが在り。 その先に向かえば、二階と降りる幅広い階段脇を通る。 そして、其処を突っ切って行くと、最初の部屋となるドアが右側に見え。 その扉をカードキーで開いた皇輝。 このマンションのキーは、高性能なカードキーらしく。 持つ手の指紋を調べて解除となる、優れものだとか。 扉を開いて、中へ入った皇輝。 「ふ~」 一息吐いてから玄関で靴を脱ぎ。 廊下に入って左側に見えるのは、浴室への曇ったドアだ。 その先に行けば、直ぐ右側がキッチンと成る。 赤と白のタイル張りの様なキッチンには、二人並んで洗い物が出来そうな流し。 電気の加熱調理器が、鍋三つか・・四つは置ける程に広く在り。 食卓とカウンターキッチンを仕切る受け渡し場が、これまた実に立派だ。 珈琲をキッチンに置いた皇輝は、キッチンを出て食卓と成るテーブルにゲームを置き。 他の余分なものは、自分の部屋へと持ち込んだ。 そして、直ぐにキッチンへと戻り。 キッチンに在る予約パネルから、風呂の準備を入れて。 それから、夕飯の支度をし始める。 昨日、帰り掛けに寄ったスーパーで買った惣菜と。 同じく、昨日に作った味噌汁で、簡単に済ませる気だった。 さて、何故にアルバイト生活の皇輝が、こんな優雅なマンションに住んでいるかと云うと…。 それは、彼の生い立ちに在る。 だが、皇輝の両親は今だ健在だ。 だが、母親は考古学の教授で、日本に戻るのは年に1・2回程度。 一方の父親は、世界的に有名な天才外科医で。 やはり世界を飛び回っている。 両親同士は互いに暇を作っては、海外にて頻繁に会っているのだが。 皇輝は何故か、一人で生きている。 実際、このマンションだって、皇輝が自分で購入しているのだ。 嘗て、この皇輝は高校生株主として、ネットで一時期だけ噂された事がある。 バイトの給料で、当時の博打的なロシアとアフリカ諸国の急成長株を買い渡り。 その転売などで、高校生にして数百億を有する資産家となっていた。 然し、 “金は、人を孤独にする” とは、良く言ったもので。 今はひっそりとした、孤独な一人生活を送る。 噂を餌に連絡を取りたがる同学生や周りとは、関係を隔絶して生きていた。 こんな皇輝にも、兄弟が3人も居て。 弟は、母親と同じ道を目指すべく、海外の有名一流大学へ留学の身であり。 妹二人は、父親と共に海外に居る。 基本的に、母親は父親の元にしか帰らず。 取り残された様な皇輝は、身内の居ない一人法師に近い。 弟妹とは、向こうから寄越す形でメールをし合う皇輝だが。 親とは全くしていないのが実情だった…。 妹の2人は、性格が両親とも違えば、どちらかと云うと皇輝に近い。 時々、親元から家出の様に来ては、長期の休みを皇輝とも過ごす。 下の妹は、配信者を目指していて。 “お兄ちゃんってさ、何でフツーの仕事なんかしてるの? 悠々自適なんだから、もっと違うことをすれば?” と言って来る。 髪の毛が赤紫で、眼に何時もカラコンを入れている。 だが、この下の生意気そうな妹は、決して両親の様な暴言を吐かない。 また、高校に成り立ての上の妹は、皇輝よりも高身長となる超美少女で、剣道・居合の有段者となり。 日本の1番の大学を目指しながら、既に剣道と居合のオリンピックの準候補に成って居た。 両親は、それを辞めさせたがっているらしいが、結果が凄すぎて手が付けられないらしい。 そして、この上の妹は、恐ろしく皇輝想いのブラコンだ。 いや、皇輝がとりわけ何をした訳でも無い。 ただ、皇輝が幼い頃から両親の一方的な期待を背負わされて居た事を知ってるし。 その後の経過も、近い場所から見て来た故の成り行きなのだとか。 レンチンして温めた物で食事を続ける。 (ン~、これ美味いな。 また買って来よう) 昨日、帰り掛けで立ち寄ったスーパーで、‘新商品’とシールを張られ売られていた鶏肉の塩焼き。 昨日は開けずして、今日食べた割に美味しくて、そう思う。 こんな皇輝と親の確執は、元は幼少期より始まっていた。 仕事柄、何かと忙しいのも在ろうが。 最初の子供である皇輝に両親は、過剰な期待をし過ぎたのが原因で在る。 父か母と同じ道を、皇輝にも強く進ませようとした。 だが、性格が合わないのか。 その期待と云う何かに窒息した皇輝は、逃げ場所を求めた。 彼の心の逃げ場所は、悠々自適な生活をしていたマイナー小説家の伯父の元だ。 この伯父は、父親とは正反対の性格にて。 皇輝とは互いに好感を抱き合った仲だった。 また、勉強と習い事に、 “やり過ぎて居るのではないか” と、周りが想うほどに煩い両親とは全く違い。 色々と皇輝を連れ回しては、色んな体験をさせ遊んでくれる伯父で。 音楽やら文学を教えてくれる伯父の方が、皇輝には親らしかった。 「ふぅ~、食べた~」 時期が冬だから、直ぐに腐るものでは無いが。 食べきって於こうと頑張って、食器を片す皇輝。 さて、こんな風にのんびりした皇輝が、何故に高校生で株主に成ったのか。 その理由は、大病を患った伯父の小説を、生前に売り出してあげたくて。 全力で金儲けをしたと云う経緯が在った。 だが、その伯父は皇輝が高校生の2年の冬に、そっと他界していた。 葉巻などのタバコが好きで。 ジャズとクラッシクと日本の音楽を愛しつつ、肺ガンで死んだ伯父。 今でも、その時のゴタゴタが、皇輝と両親の確執を絶対のものにした。 病院から連絡を受けた皇輝の父親は、 “自業自得だ” と、連絡した皇輝に云う。 その意志は、危険な所へ行くクセに‘健康思考’と云う母親も同じだった。 遺体を引き取った皇輝へ、両親は葬式ぐらいは遣ると言ったが。 “蔑んだ相手の葬式なんかするなっ! どうせ、悼む気持ちも無いなら居ない方がいいっ!! 金の心配も要らない、俺が伯父さんの意を汲んで遣る” 父親にハッキリ言った皇輝は、黙って伯父の葬式を自分の懐から金を出して、ほぼ一人で行った。 両親が長らく外国に在住する所為もあるが。 伯父を馬鹿にしていた両親に、葬儀などやって欲しくなかったし。 また、伯父本人が、 “簡単でいい。 余計な事をしなくていい。 死んだら、出来るだけ簡素な形で構わない。 骨も、永代供養をしてくれる処に入れてくれ。 下手に墓何ぞ持つと、後が大変だ。 共同の、ぶらりと来て、軽く祈って帰れる様な場所が良い” と、言っていたし。 遺言もそうだったので、その通りにしたかった。 だが、皇輝が究極の孤独へと立った瞬間が、この時だった。 今、皿や空容器を洗う皇輝。 その後ろに有るカウンターには、伯父の小さな遺影が在り。 皇輝だけが季節に合わせて、墓へ線香をあげに行くのだ。 アルバイトをしている皇輝とは、見た目よりしっかりしているが。 逆に、どこまでも寂しい青年でもある。 今、親友じみた付き合いをする獅籐には、自分の生い立ちや過去をちょっとだけ言ってある。 だが、全ては話しておらず。 お互いに夢を語り合う、いい関係を続けていた。 そして、そう居たかった…。 それから、この皇輝と云う人物は、女性に於いて非常にストイック的な一面がある。 それは、株主と成っていた頃。 高校生ながら金や知名度の所為から、年上の女性に何度も言い寄られて。 こと異性に対して、いい記憶が無い所為でも在ろう。 いや、普通ならば、寄ってくる女性と仲良く成っても構わないだろうが。 幼い頃から親に信頼を持てない事が、皇輝の内面をこうもストイックなモノにしたと言える。 洗った皿を乾燥機に入れて、空容器を拭いて捨てた皇輝は、キッチンの電気を消した。 買ってきたゲームをやる前に、風呂へ入る。 不思議なことに、シャワーだけと云う入浴が嫌いな皇輝。 身体を洗った後に、どっぷりと風呂に浸かるのが好きだった。 正に、コレは伯父の影響だった。 そして、 「ふぅ…」 上がった皇輝は、髪の毛を拭いてから自室に向かった。 彼の住むマンションは、7LDK。 一人で住むには、広すぎるだろうが。 普段から使うF・Sを置く此方の部屋は、皇輝にとっての居間だ。 (今頃、シトさんはライブの練習かな) 下で買ったコーヒーを片手に、皇輝の入った部屋は10畳ほどの部屋だ。 入って右側には、丸いテーブルと木造の折り畳み椅子が在り。 テーブルの上には、パソコンやらタブレット端末機が置かれ。 他に原稿用紙の束や筆記具の立つ缶ケースが見える。 コーヒーを飲む皇輝は、ゲームをテーブルに置いてから奥へ。 部屋の左側に在る、ベッドなのか、リラックスチェアーなのか、ちょっと区別のつき難い。 然し、見た目からしてガッシリとした、ベッドらしきモノに向かった。 部屋の真ん中に、操作パネルで明かりが点る。 そのシートの下は、黒い金属のカヴァーに囲まれ、中身が何か解らないが。 これが、最新次世代型ゲーム機、F・S(ファイナル・ステーション)である。 横になるシート部分は、シルバーカラーの特殊素材であり。 全身を走る神経電波を読み取り。 プレイヤーのコンディションを測定する。 (前評判通りなら、いいけどな~。 やってクソなら、ちと悲しいね) 心の中でこう言うと共に、パッケージを開くと透明な鉛筆に似た四角い棒を取り出した。 透明な四角いスティック状のモノは、新たに開発された“データ・バチラス”と云う代物だ。 これは、ゲームと云う物が存在した時からの宿命だが。 ゲームのデータ改ざん行為は、仮想空間の構成を妨げてしまい。 エラーと認識されれば、本体が故障と認識して何も出来なくしてしまう恐れが在った。 その為にプレイヤーや第三者が改造を出来ない様にした。 この“データ・バチラス”から情報を引き出せるのは、F・Sのみと成る訳だ。 シートの頭の裏側にある差込口に、その棒状の記憶体を挿入した皇輝。 スルリと吸い込まれる様に、回転しながら中に入って行く。 (面白かったら、今日は徹夜といきますか~) 気合いを入れたその時、怪しかった空からついに雨が降ってきた。 (ふぅ、雨か。 何だか、雰囲気が出てきたね。 ミステリーゲームをやる時に、雨って、な…) そう思いながら皇輝は、シートに腰を掛ける。 歯医者で座る椅子と、シートの形は酷似している。 そして、そのコントロールは半自動的。 スタートだけは、自分で起動スイッチか、リモコンで指示を入れるだけだ。 - コレカラ、キドウイタシマス。 チカラヲヌイテ、カラダヲラクニシテクダサイ - 頭の後ろの内臓マイクから、機械音らしい音声が流れた。 「そういやこの声、早く変えられないかな」 確かに、リラックスしなければ成らない割には、案内の音声が素っ気無い。 いずれは、色々と音声もチェンジが可能に成ると、ゲーム誌に載っていた。 そして、シートの下の機械部分が、微弱ながら機械の稼動音を響かせた…。 すると、 - シュ~ - シートの上下左右の端から、半透明なガラスの様なフィルターが伸びる。 皇輝の寝ているシートを、すっぽりと包む様に。 ‐ ジュンビカンリョウ。 マインドコントロール・スタート ‐ 完全なるバーチャルリアリティーゲームが体感できるF・Sは、この催眠化がファーストアクションとなる。 次に、催眠装置によって、軽い催眠状態に陥り。 その後、センサーなどの機器を内蔵した、半円筒型の“イデア”と云うフレームが顔を覆う頃。 ゲームの世界をイメージさせる電波、〔ファンタラナイザー〕と云う機能にて、ゲームの世界にトリップする。 プレイヤーのバイオリズムからメンタルコンディションまで、全てコントロールしているF・Sは、世界最強のゲームハードなのだ。 このF・Sは、発売と同時に仮想空間における多人数プレイはおろか。 仮想ネットショッピング、仮想資格取得通信を可能としていて。 在宅で車の運転免許も、パソコン教室も、介護資格やクレーン運転免許も、講習から取得まで出来る。 そんな、様々なこと全てを可能にしているのは、人の体感・記憶など、神経に直接働きかけているために。 仮想空間にて経験した事が、実際にやっている体験と変わらないと云う事実。 その誤差は、0.012%と云う。 F・Sで体験して駄目な行動は、実際にやってもなかなか上手く行かないと云う訳だ。 そして、最初から無料で繋げるサービスに。 〔オンライン・バーチャルネットワーク・ワールド〕と云う、別名を〔HEAVEN'S DOOR〕へF・Sから行くと。 仮想空間世界[フリーワールド]に行ける。 ここでは、大体ヨーロッパ大陸一つと変わらない広さで、仮想現実世界が存在していて。 普段の行動と同じことが、この世界で体感することが出来る。 今のサービスでは、映画もクレジット払いで見れるし。 バーチャル空間で、遊園地で様々なアトラクションにも乗れる。 また、もし電脳世界でキスすれば、キスの感覚は在るし。 殴られれば、当たる感覚がある。 無論、セックスも、殺人も…。 総括するなら此処で、もう一つの人生を送ることも出来る訳だ。 それに比べてゲームの方は、あくまでもゲームの仮想空間でしかないが。 ネットワークで、多人数の人と戦争ごっこも出来るし。 RPGのキャラクターに成り切れもするから、究極のコスプレとも言えるか。 このF・Sは、 “人の願望を叶える最高のバーチャルシュミレーター” と、こう云えるだろう。 然し、そんな可能性の広いF・Sは、同時に悪用の種も無限に抱えてしまっている。 その代表と云うべきものは、 [サイバーライバー] と、 [憑依] と云う、この二つで在ろう。 F・Sは、基本的に精神そのものがトリップしている。 その為に、人間という脳に内在した人格や経験を形成する記憶データを、コンピューター解析で情報として取り出してしまうことで。 データ化された情報的記憶だけで、人の性格を持った仮想空間人間(バーチャルヒューマン)、と云うものを生み出す事が可能性に成る。 つまり、精神的存在のみだが、仮想空間に“クローン”を作れるのだ。 また、もし万が一に、その肉体が失われたとしても。 記憶をデータ化して性格形成した人格データが、コンピューターか記憶媒体に存在する限り。 または、人格形成したデータが在るF・Sが、電源を得て起動する限り。 精神的なクローンはF・Sを利用することで、延々と生き続ける事が出来る。 そして、仮に・・だが。 別人の肉体でも手に入れ様ものならば。 その別人の記憶を消去して、データとして生きるだけの人物の記憶を入れることで。 なんと、姿を別人に成り済ませることが可能に成る訳だ。 この、データとして。 もしくは、F・Sの中でのみ生き続けることを、電脳生活(サイバーライヴ)と呼び。 また、生き続ける人を、〔サイバーライバー〕と云う。 そして、マインドデータをコピーして他人と摩り替わる事を、憑依(ひょうい)と呼ぶ。 これらが悪用されたら、犯罪者に悠久なる自由を与えることになり。 また、様々な犯罪を悪化させる可能性を、多大に・・いや。 無限大に秘めている。 更に、世界の専門家が懸念する事として。 バイオテクノロジーとこの技術を併用すれば。 クローン人間や、同じ精神の人間を大量生産することも可能になる。 また、サイバーライバーは、ネットワークという世界と繋がった通信網を、普通のデータとして行き来する事が可能なので。 精神的な海外逃亡なども、容易く可能にしてしまう危険性も秘める。 この技術が悪用されれば、只でさえ人口が増え過ぎて、人間の価値や存在意義が希薄化する今。 個人の取り替えが利く様に成ったら、‘only one’も‘唯我独尊’も無い。 また、臓器移植が可能に成れば、臓器の違法取引が可能に成る様に。 この技術が完成すれば、‘器’として、人身売買が成立する。 先天的、後天的な難病を患った者のみ成らず、あらゆる病気より逃れる手段として。 健康的な人間への繰り返し憑依する者も現れよう。 “永遠なる生存” そんな事まで、この技術は可能にする恐れが在った。 正に使い方次第では、恐ろしく呪われた技術とも言えよう。 一応、今、世界的に販売されているF・Sのハード自体には、マインドデータを抜き出せない様な、凄まじく強力なセキュリティーが何重にも複雑に組み込まれており。 今の処は、その悪用を完全に防ぎきってはいる。 然し、技術が進歩する中で、必ず既存のセキュリティーは破られる。 製作元の大手家電メーカーの〔SINYE〕と日本屈指の通信会社〔NNT〕は、絶対に止まれない技術開発に日夜奔走しているのが現状であった。 この技術は、未来にどんな影響を与えるのだろうか。 関わる者が、何処かで抱える不安で在った…。 ------------------------------------------------------------       SCENE Ⅱ      【獅籐と花蓮】 {東京、渋谷} 2000年初頭の渋谷に比べると、二十年以上を経た今の渋谷の街は、ガラリと一変した。 洒落た外見のビルは少なくなり、緑の外壁や光触媒を使った外壁ばかりが目立つ、地味なビルが乱立する。 この全ては、地球温暖化が齎したヒートアイランド現象が引き金で在る。 国がビルを建てる時の基準を、環境に沿う形で大きく変えてしまった為だ。 獅籐は、そんな街でも数少ない、見た目が変わらないままの渋谷駅を出て。 宮下公園に向かって、早足で歩いていた。 さて、この獅籐と云う男は、俗っぽい言い方をすると。 “売れないミュージシャン” というよりは、 “変われないミュージシャン” と云った方が近い。 今の流行りからして、彼の求めるハードロックはもう古いと、周りから云われていながらも。 何故か、それに強い拘りを持ち続けている。 (環境ミュージックだけが、音楽じゃない…) いつも、心に湧く言葉…。 最近は、環境・癒し・スローミュージックが持て囃されていて。 ロックやジャズやポップは、敬遠されがちだ。 獅籐は全身でエネルギッシュに、まっしぐらに音楽を遣りたいのだ。 宇田川町に向かって、神山町の近くから脇道に入り。 其処からビルとビルの間を縫うように歩くと。 行き当たる所に、イベント関連からスタジオまで入る、ソフトクリームの様に渦巻き型のビルが在る。 獅籐が、そのビルを目前にした時。 (あ、赤に変わっちまったよ) タイミング悪く、横断歩道の信号が変わった。 獅籐の見る道路を走る車の形に、少し前と形的な変化は少ないが。 自動運転で走るものが多く。 トランクの隅に在るマークには、〔水素〕、〔電気〕、〔メタンガス〕などの燃料表示のエンブレムが在る。 (はぁ~、車が欲しいな) 運転免許は、持っている獅籐だが。 金が無いので、車を保持してない。 車庫や維持費を考えると、音楽との両立は難しいのだ。 また、信号が変わる。 横断歩道を渡り渦巻き型の上部をしたビルの外壁を回って、左側通行のままに歩道を少し行くと。 左手に、ビルの地下へと降りる、スロープ階段が見える。 スマホで時間を確かめた獅籐は、そのスロープ階段を下りて行った。 =バンドハウス・鋼鉄の獅子= このビルの地下に在るのは、もはや少なくなったロック中心のライブハウスで在り。 ライブハウスの地下には、練習場も備える。 然し、このライブハウスの地下に在る練習場は、時間単位で貸して貰える。 その為、練習場を求めて、100人近いミュージシャンが毎夜登録して、集まり寄る場だ。 また、ライブハウスは、曜日別でジャンル別のライブを行うが。 この日は、ロックやポップスのみが主体。 だから、獅籐もこの日を練習に選んだ訳だった。 このライブハウスに、タバコや酒などは売って無く。 なれど飲食は、持ち込みOKと緩い部分も在る。 獅籐が地下2階に下って行くと。 暗がりの先から微かにだが、激しいミュージックが響いている。 (やってるな~) 荒削りながら、エネルギッシュなビートを感じた獅籐は、防音の曇りガラスドアを開けた。 するといきなり、ギターの爽快な響きが耳を貫く。 (いいな、この音…) それは、古いエレキギターの音だった。 「おーっ、漸くレオが来たぜっ」 耳にピアスをしているモヒカン頭の若者が、獅籐を見つけてそう言った。 「よ、ばんわ」 獅籐は、長めの前髪を撫で上げて、声を掛けてくる若い知り合い達と言葉を交わす。 また、このライブステージがあるフロアから、リハーサルを本番さながらに演奏するバンドが居るその最中で。 「レオ。 メンバーが来てないぜ」 最後方の列の端の席に座って居た、派手に髪の毛を染め、皮ジャンに皮パンツの若い男が、獅籐に顔だけ向けて言う。 「あ?、マジ?」 困って聞き返した獅籐に、 「お~い、レオ。 今日は、お前達も練習するんだろ? 例のイベントが近いぞ」 と奥のカウンターから言ってくる野太い声。 獅籐が向いた方には、受付カウンターが在り。 最後の話は、此方から聞こえて来た。 「え? 一応、そのつもりなんですけど…。 誰も来てないって、マジっすか? マスター、マジで、一人も?」 カウンターの内側に座っているのは、中年から初老に近い男性だ。 髭はモジャっとしていて、太っている訳では無いが、肩幅の広さからしてもガタイが大きい。 彼がこの店のマスターであり、元は結構売れたミュージシャンでもあった。 その頃の面影すら無い頭は、角刈りにしているが。 “俺が若かれし頃は、ロン毛でモテた” と、彼は自称する。 今は、店のロゴの入ったブラックジャンパーに身を包み、いつもカウンターに座っているのだ。 さて、ライブハウスのマスターが、下を指差し。 「いや、花蓮(かれん)だけは、下に来てるよ。 何でも、お前が知り合い連れて来るからって、嬉しそうに言ってたぜ」 すると、何故かハッとした獅籐。 「あ゛っ、ヤッベェー。 そうだ…、ソレを忘れてたぜ」 花蓮との約束を思い出し、急に力が抜ける。 獅籐のその様子に、凝らした目をするマスター。 「どうした?、何か在ったのかぁ?」 「いや~、俺の仕事場の同僚にさ、花蓮が逢いたがってたんだわ」 話の読めたマスターは、呆れた顔になって首を竦める。 「バカ、そんなら早く謝って来い」 「うぃ」 応えた獅籐は、丁度いま新曲を演奏しているバンドが立つ、半円形のステージ脇をそっと通り。 地下3階に行く階段へと向かった。 次にステージに立つバンドの面々が、その遣り取りを見て居たが。 メイクもした綺麗な顔をした若者の一人が、 「あれが、噂の‘レオ’か。 随分と、マスターと仲がイイな」 と、呟いた。 その脇にて、演奏を見て居る大柄のスキンヘッドな男性が。 「だろうな。 レオとあのマスターの仲は、もう十年近くに成るからよ。 マスターがこのライブハウスを去る時に後を預けるとしたら、間違いなくレオだろうな」 疑問を呈した美顔の若者は、仲間に振り返って。 「‘十年’? あの‘レオ’って人、もう三十近いのか?」 「いやいや、三十近いのは、寧ろ俺の方さ」 「幾つから、このライブハウスに来てるんだ? まさか、バイトしてたとか?」 「さぁ、その辺を知りたいならば、レオと仲良くなれさ。 そら、俺等の出番だ」 スキンヘッドの男性は、その若者に声を掛けて。 向こうの裾に捌けて行く、演奏の終わったバンドと入れ替わる様にして、ステージに上がって行った。 さて、獅籐とマスターは、本当に十年の付き合いに成る。 マスターは、それだけ獅籐の事をよく熟知しているのだ。 そして、この場所に居る皆が云う、獅籐の異名の〔レオ〕とは。 このライブハウスに来る者の中で、一番にギターが上手い獅籐が。 まだ未成年者だった頃、最初に作ったバンドの名前から来ている。 〔キング・オブ・レオ・ハート〕 これが元のバンド名で。 まだ学生だった頃からの獅籐を知るバンドマンは、みんな‘レオ’と呼ぶのだ。 話を今の獅籐に戻そう。 地下三階は、防音壁に仕切られた小部屋が数十在り。 バンドの練習場となっている。 三階に降り立つ獅籐は、困っていた。 (ヤバイな~、怒るかな~) 花蓮とは、今の自分が組んだバンドのメンバーで、女性ヴォーカル担当だ。 ピアノやシンセも出来る、ゲーム好きな十九歳の女の子。 声は透き通る綺麗な感じで、花蓮の歌は配信するとそこそこ安定した金を生む。 これは、獅籐のみ成らずの感想だが。 多分、ルックスもかなりイケるので。 ソロで今の流行りに徹すれば、メジャーデビューは堅いだろう。 だが、花蓮は獅籐の作ったバンドとロックを、こよなく愛してくれている。 この花蓮、メジャーデビューばかりを夢見て居ると云うよりは、マルチにして自由に生きたい思考が在るらしい。 それで、将来の夢は、 “スーパー可愛いお嫁さんに成る” とか、どうとか。 廊下に面した壁が透明な、隣とも防音壁で仕切られた練習ルームは、個室のショールームの様に円形で並ぶ。 その一つで、内側を見られ無い様に通電し。 曇りガラスに成っている部屋に、ノックして鍵を開けて貰って入った獅籐。 「花蓮、待たせた~」 以前に来た時に、前払いで借りていた練習ルーム。 言いながら入れば…。 「むぅーっ! 遅い~~~、レオ」 パイプ椅子に座った若い女性が、口を尖らせて言って来る。 獅籐の入った部屋は、6畳ほどの広さで。 天井には、四隅にスピーカーが設置され。 ドラムとシンセは、既に置いてある簡素な場だ。 「悪い、悪い」 言いながらギターを下ろして、別のパイプ椅子に上着を脱いで掛ける獅籐。 「ほら、紅茶」 途中のコンビニで買った、パック入りのストレートティーを、肩掛けのバックから取り出して花蓮に渡した。 「うぃぃ~」 紅茶を受け取る少女は、急に機嫌が良さそうに成った。 獅籐の前に居るのは、長い黒髪が良く似合う。 小顔の可愛らしさと綺麗さがなかなかに調和した、所謂の美少女だ。 然し、黒いジャケットの様なロングコートを羽織るのは、ロックバンドのメンバーだからか。 その下には、クリーム色のタイトなセーターを着て、下に短い黒のジーンズを合わせ。 純白の長いスパッツの様なものを穿いている。 この彼女が、〔花蓮〕だった。 貰った紅茶のバックの口をさっそく開き、ストローを入れた花蓮だが。 獅籐を見返すと。 「レオ、で? 嵩稀さんは、ドコ?」 問われた獅籐は、花蓮へ手を合わせ。 「済まんっ、連れて来るの忘れた…」 それを聞いた途端に、プゥ~っと膨れっ面をする花蓮。 「む゛ぅぅぅ~、にゃんで忘れるのよ゛ぉぉぉ…」 「申し訳御座いません。 誠に、すみません」 と獅籐は、平謝りで弁解した。 すると花蓮は、無人のままのベースを見て、少し拗ねたままの口調にて。 「トコロで、今日はど~するの? み~んな、来る気配がないよ」 詰まらなそうにして、貰ったティーを吸う花蓮。 同じくベースを見た獅籐は、また花蓮を見て。 「何で、みんな来ないんだ?」 流石に獅籐も、其処には不満顔を作った。 今日、この場に集まって練習する事は、前々からバンドメンバーに何度も連絡しておいた獅籐だった。 紅茶を口に含んだ花蓮は、飲んでからスマホを取り出し。 画面を見て、メールが無いのを確認。 そして、 「ユウは、昼前からずぅ~~~っと音信不通だよ。 さっきからメールしても、TELしても、一向に出ない。 蘭宮(らみや)は、なんか忙しいってさ~。 また、金蔓の為に付き合ってる女と、六本木のクラブ辺りで遊んでるんじゃないの~?」 経過を聴く獅籐は、額を顰め。 「なんだよ、そら…。 クリスマスと年末年始のライヴは、どうする気だよ。 あいつらめっ」 と、後に舌打ちまで添えた。 ドラムのユウ、ヴォーカル兼ギターの蘭宮。 そして、この花蓮と師籐で、ロックバンド〔システィアナ・メイリーン〕を組んでいる。 このユニットは、獅籐が主導で作った。 解散だったり引き抜きから、仲間がメジャーに成る過程でバラけたユウや蘭宮が、後から入った形だ。 然し、ドラムのユウは、これまたゲーム好きで。 “新作の発売ラッシュで、年末年始は忙しい” と前々から言って居たので、だから顔を出さないのだろう。 一方、ギターの蘭宮は、毎夜の恒例のように女連れで飲み歩き。 ここ最近は、素行や言動がおかしいと他の友人が噂している。 獅籐としては、蘭宮は気取り屋な上になまじ格好良くてモテるし。 花蓮を狙って入って来たからクチだから、彼女に全く好かれないと解った以上。 長くはこのユニットに居ない、と既に心得ていた。 然も、蘭宮とは最初から、 “足掛けで入る” と云う事が条件だったから。 どうなろうとも仕方ない、と、獅籐も最初から思っていたのだ。 だが、ユウが連絡も無く来ないのは、どうも不可解である。 すると、困っている獅籐に、花蓮が椅子ごと迫って来て。 「ねぇ、ねぇ~、レオぉ~」 急に甘えた口調へと変わる花蓮は、ちょっと面倒な‘おねだりタイム’に入る予兆。 身を引いて見た獅籐は、 「何だ? 金は無いぞ」 と、思いっ切り身構えた。 すると、花蓮の顔がニコニコと可愛らしくなり。 「これからでもいいからさ~、嵩稀さんに逢えないかな~」 「あ? これから・・って、もう九時を過ぎたぞ」 「だってぇ、嵩稀さんってさ。 あの‘F・S’を、個人で二台も持ってるんでしょ?」 「ま・まぁ、な」 「私、チョ~やりたいな~。 今日、発売したゲームの〔ラビリンス〕っ」 この似たような台詞を皇輝からも聴いた、と。 朧気に思う獅籐で在り。 「お、お前も、か…」 と、ガックリした。 巷の噂の多くが、F・Sの最新ゲームの話題で盛り上がっていた。 クリスマスを前にして、各ゲームメーカーが次々と発売ラッシュに入っている。 紅茶をチューチューした花蓮だが、口を離すと気合い十分にて。 「当たり前じゃん! レォぉ~、F・Sって凄いよっ。 私達二人で、あの中でユニットデビューしようよぉ~。 今ならまだ先駆けに成るし。 レオの実力とアタシの声で、絶対に売れるって!」 「ふぅ・・ん」 確かに、それは目の付け所は悪く無い、と思う獅籐なのだが。 「然しだなぁ~、花蓮。 一番安いモデルですら、新車並みの値段が付くあのゲーム機を、ど~やって手に入れんだ?」 すると、花蓮も頭を抱え込んでしまい。 「う゛ぅ~。 オーソドックスタイプで、1台86万って、幾ら何でも高過ぎだよぉぉ~。 ソフトは、普通の価格なのにぃ~~」 そんな風に愚痴る花蓮へ、獅籐は感情を高ぶらせつつ。 「‘高い’だなんて、バカを言うなっ。 あんな高性能なモンっ、それくらいするわっ!!! 俺には、それでも安いと思うぐらいだよ」 確かに、それはその通りと感じた花蓮は、嘆く仕草を見せ。 「フェ~ン。 私等じゃどう頑張っても、絶対に買えないよぉ…」 と、言って。 それから兼ねてより疑問に思っていた事を、流れに乗った様に口にする。 「でもさぁ、レオ~」 「ん?」 「何で嵩稀さんは、あんな高価ものを2台も持ってるんだろう?」 「さぁ、な」 皇輝の私生活には、まだズケズケと入ることを躊躇う獅籐だから、この話は気楽に出来ない。 然し、まだ皇輝のことを良くは知らない花蓮は、その年齢も若いから興味が先行し。 「然も、嵩稀さんの持ってる2台って、F・Sのモデルとしては最高級の、〔未来型〕って奴でしょう? レオ、嵩稀さんってもしかして…、資産家とか銀行王の息子とか?」 花蓮からこう言われた獅籐は、確かにそこが不思議だった。 思考の優先度が入れ替わる。 「まぁ~なぁ~。 ちょっとは、小説が売れたみたいだったケド・・。 それぐらいじゃ、最新型のF・Sを二台は無理だわな」 言う獅籐だが、その内心では。 (花蓮の言う通りかもな~。 軽車を保持して、最高モデルのF・Sを二台。 然も、あの高級億ション住まいだし) F・Sには、発売当初から5つのモデルが在る。 最高モデルの〔未来型〕は、その性能やら記憶容量が桁違いで。 一台の値段が、一千万や二千万では無いらしいのだ。 所持する事で有名なのは、ハリウッド俳優やらエネルギー産業の社長の息子など。 また、日本の大物俳優が5000万円を費やして、ネットオークションで競り落とそうとしたが。 最終的に2億を超す値段が付いたとも。 この話からしても嵩稀と云う男は、獅籐の眼から見ても不思議と思える。 何よりも第一に彼は、人生を焦っている様子が全くない。 ま、其処が、彼の魅力の一つであり。 また、不思議さであった。 特に金に関しては、どことなくゆとりを感じさせる。 考える獅籐の耳に、花蓮の声が入って来た。 「・・オ、レオっ。 聞いてますかーーーっ!」 それに気付いてハッとした獅籐は、目の前の花蓮を見るなり。 「な・何だ?」 「もうっ! だっ・かっ・らっ! 嵩稀さんに連絡入れてみてっ」 「あ゛っ? 今か?」 「うんっ」 まだ若い分、ワガママな処が無い訳でもない花蓮。 「まぁ、そりゃあ構わないが…。 多分・・今頃は、タカさんもその噂のゲームをやってると思うぜ。 ゲームの中に行っちまったら、メールに気付くかな~」 すると、鼻息が荒くなりさえする花蓮が、何故だか、力強く。 「大丈夫だよっ! F・Sって4・5時間やったら、自動的に起こされるみたい。 トイレとか、食事とか、休憩とか必要になるからっ」 こう言われては、断る言い訳が見当たらない獅籐は、押し切られる様に。 「わーた、わーたっ、メールしとく…。 ちぇっ、メンバーが揃わないなら、今日この場を押さえた金が無駄じゃないか…」 スマホを手に取る獅籐は、ゲンナリして呆れた。 せっかく来たのに、練習が出来ないとは疲れる。 するとまた、花蓮がプゥ~っとむくれ。 「そう言えば、ちょっとレオぉ~」 「今度は、何だぁ?」 「てか、アタシが歌う予定のソロ歌二つ、どうすんのよっ! 一応、この間に貰ったメロディーの一個は、スマホのヴォイスレコーダーでデモを録ったんだよ~」 と、スマホを見せてくる。 メールを打つべく、スマホの画面を操作していた獅籐だが。 花蓮の話を受けると、突然ガバッと顔を上げて。 「おっ、それ聞かせてくれっ!」 然し、花蓮は横向いて、また紅茶を一口してから。 「む゛ぅぅぅ~。 ホントなら嵩稀さんに、一番最初は聞かせようと思ってたのにぃぃぃ…」 と、呻く花蓮。 実は、何かと獅籐を通じて、バンドの音楽活動に必要な経費を一部だけチマっと出していた嵩稀。 その事を知る花蓮は、それについても感謝しているらしいのだ。 既にこの花蓮は、2・3度だが、嵩稀と逢っている。 花蓮が一番元気に喋るときは、決まって脇に嵩稀が居た。 花蓮の様子を見た獅籐は、素直に感じる。 (もしかして、花蓮ってば・・。 タカさんに惚れてるのかな?) 花蓮を好きでなくとも、何でかジェラシーが湧いた獅籐。 一応、嵩稀にメールを送ることにする。 ‐ もしもし、タカさん? 俺、獅籐だけど、こんばんわ~。 実は、ちょっと迷惑な話かも知れないが。 ウチの花蓮がF・Sをやりたい上に、タカさんにも逢いたいとさ。 メールに気づいたら、連絡くれ~ッス。 ‐ と、ヴォイスメールを送った。 一方、スマホを操作していた花蓮だが。 間近にて、獅籐のヴォイスメールを聴くなり慌て出し。 「わ! わ゛わ゛っ! レオっ、今っ! 何て言ったっ? ‘逢いたい’だなんてっ…恥ずかしいダショ~」 と、顔を赤らめる彼女。 その様子を見た獅籐は、花蓮が女で在る事と。 皇輝に対して特別な感情が有る事を、再認識した気がした。 〔TO THE NEXT CONTINUATION〕
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