泣き顔

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姉の由利恵が海外留学をしたいと言い出した時、母はとても反対した。 「駄目よ、由利恵は女の子なのよ。危険だわ。体格だって決して大柄じゃないし、何があっても抵抗できるものじゃないの。お願い、そんなこと考えないで」 「お母さんは考え過ぎよ。ちゃんと女性でも留学している人は多いもの。自分がしっかりしていれば何てことないわ」 そして、兄の和司が北海道の大学に進みたいと言った時も、母はかなり反対した。 「やめてちょうだい。だって和司は男の子なのよ。いずれ大学を出たら家族を養っていかなきゃいけないの。その後の人生のことを考えるべきよ。就職が厳しくなっても、過去に戻って学部を変えることなんてできないのよ」 「母さんは悲観的に考え過ぎなんだって。今時、どこの大学の学部を出たところで、就職できない時はできないし、できる時はできるもんだよ。それにとてもワクワクしてるんだ。冬なんて凄い雪らしいしね」 結局、母の心配など一顧だにせず、二人は自分の道を決めてしまった。 そんな母は一人でさめざめと泣いていたが、母が部屋で見ていた、留学生が巻き込まれた事件の数々や、北海道のその学部を出た人の潰しがきかない人生といった特集データは、何とも見事な量で、どこまで調べたんだろうと、こっそりそれらに目を通した僕も呆れたものだった。
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