泣き顔

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末っ子は要領がいいと言われるが、両親や上の兄姉を見ていれば、子供ながらに気づくものもあるというだけだ。また、一番小さいので警戒されにくいのもあると思う。 そう、たとえば父の友人がやってきて、二人で話しているのを盗み聞きしている時なども。 あの時、母はキッチンで酒のつまみを作るのに忙しかったし、兄や姉は若い血が疼くのか、帰省してきても友達と出掛けまくっていた。 そして子供だった僕は、ノーマークだったのだ。 「相変わらず綺麗だよなぁ、佳織(かおり)さん。いつだって控えめで良妻賢母って感じでさ。一目惚れしたのはこっちだって同じだったのに、お前ばっかりちゃっかり結婚に持ち込みやがって」 母に父が一目惚れとは知らなかった。だけど母を大事にしている父を見れば、それも納得である。 「なんとでも。お前だってかわいい奥さんもらって元気な子供に恵まれて、・・・うちみたいな反骨精神バリバリな子供達よりよほど父親として立派じゃないか」 「反骨精神どころか、由利恵ちゃんや和司君はきちんと進路も考えて立派なもんだったよ。お前だって色々調べてたしさ」 「まあな。苦労したよ、やっぱり子供のこととなるとな。まあ、由利恵もけっこう安全な地区で暮らしてるし、日本人を受け入れ慣れてるところだし、問題ないだろ。和司もあそこなら卒業後もどうにかなるだろうし」 ちなみに、母はキッチンで酒の肴を作っている。 父とその友人は、リビングの横にある独立した和室にいて、ビールと冷や奴で始めている。 僕は、キッチンと和室の間にあるリビングスペースでテレビを見ていた。 つまり僕は、テレビに集中していたら何も聞こえないけれど、そうでないなら父達の話に聞き耳を立てることも可能だったのである。 キッチンにいる母は手元の音が先に立つので、父達の会話は聞こえていなかっただろう。 (お母さんがよく見ていたプリントとかによると、由利恵姉さんは色々と危ないことも多い環境で、和司兄さんは卒業後の就職が危なかったのでは・・・?) 僕が父に対して、疑念を抱いた始まりだった。
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