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子供は何も見ていないようで見ているのだ。
今の僕は知っている。
父は母を大事にしているし、辛い思いをさせることはない。だが、その一方で泣く母を慰めるのが好きだということを。
(お父さん。あなたって人は・・・)
だけど、母にそんなことは言えない。
あんなにも父を信じ、愛している母に、そんなことをどうして言えるだろうか。
そして、姉にも言えない。
まさか姉の海外留学を応援し、様々なことに対して心を砕いていた父が、その裏で母にはその危険性だけを伝えて心配させていたなどと、どうして言えるだろうか。
勿論、兄にも言えない。
兄に対して大学後の進路まで考えた相談に乗り、慣れない分野にまで様々なツテをたどって調べていた父が、その裏で母には息子を案じずにはいられないことを吹きこんでいたなどと、どうして言えるだろうか。
「直也、お前はどこに進みたいのかな? ちゃんと父さんに相談するんだぞ」
「うん。お父さんは頼りになるからね。由梨絵姉さんも、和司兄さんもそう言ってた」
「そうかそうか」
父のことは好きだ。
僕が言えばちゃんと進路についても親身になって考えてくれるだろうし、父なりに色々と協力してくれると分かっている。
だが、しかし。
そうしてその裏で母を泣かせるのかと思うと、どうしてもそれに協力したくはないのだ。
(最初は、愛しているフリをしてるだけで、お母さんのことを嫌いなのかと思ったけど、どう見てもお母さんにベタ惚れだしなぁ。結局、慰めるのを楽しんでるだけなんだよね)
子供は、かなり見ているものなのだ。
僕なりにこっそりと観察していた結果、単に父は母の泣き顔が見たいだけではないのかと気づいた。
(言えない。誰にも言えない、そんなこと)
きっと僕はこの秘密を墓場まで抱えて持っていくのだろう。
そんな僕は、女の子はやっぱり笑顔が可愛いと思っている。
うちの父はおかしい。
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