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 案の定、あからさまに落ち込んだ様子になってしまった亘琉の様子に、自分のしてしまったことをすぐに悔やみ、罪悪感がわき上がる。いつも、互いを思いやり、尊重しているはずのふたりが気まずそうにしていることを、暁人は不思議に思いながらもどこか喜んでいて、それがまた自己嫌悪になっていた。  暁人は小学生のときから知己が好きだった。  小学校から一緒だが、特に仲がいいわけでもない。でも昔から背が高くてかっこよくて目立つ知己を目で追っていた。  知己の周りで黄色い歓声を上げる女の子たちと、自分の気持ちが一緒であるいうことに気付いたのはいつからだろうか。  同性に、友情ではない気持ちを抱く自分の指向には、わりと早く気付いた方だと思う。だがもちろん誰にも打ち明けず、ひっそりとこの気持ちに寄り添ってきた。    中学に入学して、亘琉と同じクラスになった。  活発で、誰からも好かれる亘琉と、静かで周りとあまり打ち解けない暁人が、なぜかウマが合って仲良くなった。そして、亘琉を通じて同じサッカー部である知己とも言葉を交わすようになった。  長年の片思い。だからこそ、知己と亘琉の間で芽生えた、普通の友情ではない空気に暁人はいち早く気付いた。 「アキ、だから一緒に帰ろう?」 「うん」  手に持っていた本以外はまとめてあったから、すぐに部室を出た。  校門へ向かうまでの間、広いグラウンドの一番奥で、知己がボールを蹴り続けているのがみえた。上級生はもう引退したから、気にせず没頭できるのだろう。そんな知己を亘琉が気にしている。暁人に気付かれないようにひっそりと様子をうかがっているが、バレバレだ。
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