.

11/77
前へ
/77ページ
次へ
「知己、頑張るね」 「もう、大会も終わったんだから、あんなにムキになって練習することないのに……」  亘琉が少しだけ不満をにじませた声でつぶやくと、絶妙なタイミングで遠くの知己がこちらを振り向いたので、聞こえるはずもないのにどきっとする。暁人に顔を向けている亘琉は知らないだろうが、表情をうかがえないくらい遠くでも、熱のこもった視線で知己が亘琉を見ていることが暁人にはわかった。  ――こんなに意識し合うくらい、ふたりは想いあっているんだ。  本人たちも自覚していない気持ちに、暁人はいち早く気付いていた。  知己との再会は今回の異動とは関係なく、偶然だった。  暁人は以前から月に一度、地元に戻っていた。  友人もあまりおらず、あまりよい思い出があるとはいえない場所なのにまめに戻っていたのは、亘琉の月命日に墓参りをするためだった。  亘琉が亡くなってからずっと欠かさず、大学生になり地元を離れても、就職して仕事の関係で数日ずれたとしても、月に一度は必ず墓地を訪れており、それは暁人にとって長年の習慣になっていた。  亘琉は高校一年のときに事故で亡くなった。
/77ページ

最初のコメントを投稿しよう!

196人が本棚に入れています
本棚に追加