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うれしそうにしている亘琉の姿は、暁人の完全な失恋を意味した。
それも、打ち明けることすら許されないもの。何年経ったら、亘琉に心の底からおめでとうを言ってあげられるのだろうと、亘琉の笑顔をみつめながら暁人はぼんやりと考えた。
そして離れていた時間を取り戻すかのように逢瀬を重ねるふたりを見かけるたび、自分の入り込める隙などないのだとつきつけられる。嫉妬すら馬鹿馬鹿しくなるほど幸せそうなふたりを前に、暁人は知己に抱いてしまった恋心を、永遠にしまっておこうと決めた。
「あら? ふたりが一緒に来てくれるのって、とても久しぶりじゃない?」
再会したのは、花屋の前だった。
きっと、知己も墓参りをしているだろうということは容易に想像できたから、なるべく鉢合わせないよう、月命日の一日前か後に訪れるようにしていた。だがある日ばったりと出会ってしまったのだ。
気まずい思いでいる暁人とは裏腹に、知己は再会を喜んでいるように見えた。ひとしきり近況を伝え合い、そのままなんとなく一緒に店の中へ入った。
花屋の店長である女性は、あの頃から見た目があまり変わっていない。毎月のように顔を合わせていたが、花を選ぶやり取り以外で、話しかけられたのは久しぶりだった。
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