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「俺たちのこと、覚えているんですか?」
「もちろん覚えているわよ。花屋に高校生の男の子はあまり来ないから。それにいつも別々に来るあなたたちが一緒に来てお花を買ってくれた日は、記録に残る程の大雪の日だったものね。あれからまた、毎月別々に来るようになっちゃったけれど」
店長の言葉に驚いたように、知己が暁人を振り返った。
元恋人だった知己はともかく、暁人があれからもずっと、毎月墓地を訪れていることを意外に思ったのだろう。隠していたわけではないが、できることなら知己には知られたくなかった。
しかし出会ってしまったものは仕方がない。ふたりで亘琉の墓に花を供えた。知己は十年前の大雪の日と同じように、長い時間手を合わせていた。
そのことがきっかけで、毎月地元に戻っていることを知己に知られてしまい、それからなんとなくまた会うようになった。
過去に振られた気まずさもあって、あまり会いたくない暁人だったが、なぜか知己は歓迎してくれて、暁人が地元に帰ったときは車で最寄り駅まで送り迎えしてくれるようになった。知己が東京に来るときも、必ず連絡を入れてくる。
再会した知己は、立派な大人の男になっていてまぶしいくらいだった。相変わらずかっこいいし、仕草もスマートで、悔しいが相変わらず暁人の理想のタイプど真ん中だ。
さすがに亘琉を喪って間もないときのような痛々しさはみられなくて、暁人は心底ほっとする。
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