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――あの頃の知己は普通じゃなかった。
十六歳という多感な時期に、大好きな人を喪ったのだから、周りにあたり散らすとか、悲しそうな顔をしたり、泣いたりすれば、不器用な暁人でも声のかけようがあったと思うけれど、知己がそんな姿を見せることはなかった。
だが感情を表に出さない分、体の機能がおかしくなってしまったのか、あるときから知己は寒さや暑さ、痛さなどの感覚が極端に鈍くなってしまったらしい。
暁人がそれに気付いたのはある月命日だった。
花屋でばったりと出会った知己は、大雪だというのに制服の上にコートも羽織らずに立っていた。その寒々しい様子に、見ているこちらの方が身震いしてしまう。
「さ、寒くないの? 知己」
「えっ……、寒い? そうかな……」
コートだけではない、手袋やマフラーもしていないのに、知己は寒さをまるで感じていない様子だった。驚きのあまり思わず触れてしまった手は、氷のように冷たかったというのに。
なりゆき上そのまま一緒にお参りをしたのだが、薄着のままで、いつまでもいつまでも墓前で手を合わせ続ける知己を放っておけなくて、暁人も横でずっと付き添っていた。
やっとお参りを終えてバス停に向かう前、暁人はどうにも見かねて、きょとんとする知己にかまわず、それまで自分がしていたマフラーを巻いた。だがとっくに手遅れだったみたいで、その夜から知己は高熱をだして三日間寝込んでしまった。
発熱も本人に自覚はなく、翌朝いつもどおり学校へ行こうとしたのだけれど、玄関の前で倒れてやっと、出勤前の家族が異変に気付いたくらいだったそうだ。
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