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「じゃ、カンパイしようぜ!」
「うん……乾杯」
戸惑いを隠せない暁人と違い、知己はすこぶるご機嫌に見えた。荷ほどきを手伝ってくれた上に、疲れただろうからと、近所のスーパーで惣菜やつまみ、酒まで買ってきてくれている。
「なにからなにまでありがとう」
「いいって、気にするなよ」
「だけどひとつだけ、伝えておきたいことがあって……」
「なんだよ」
ビールグラスをあおっていた知己が片眉を上げ、いぶかし気に目を細めた。
「あのっ……僕昔さ……知己にその、告白……したことあったでしょ」
「うん……あったな」
「嫌なこと思いださせてごめん……」
「そんなこと、全然ないよ」
「あのころから僕はやっぱり変っていなくて……ゲイなんだ」
「うん」
「もっ、もちろん今、知己とどうこうなりたいとかではないから安心して欲しいんだけど……でも、そういう僕と一緒に暮らすっていうの…………抵抗があると思って」
「ないってば」
「えっ、ないの……? でも、同居を始める前の今なら、僕は大丈夫だからその……はっきり言って欲しい。後からやっぱり駄目だったって言われる方が、キツいから」
暁人としては同居をするならやはり、けじめとして自分の性的指向を伝えておかなければいけないと考えていた。
しどろもどろでそのことを伝える間、知己は一瞬眉間にしわを寄せたようにみえたが、やっとのことで話し終えると、今度はきょとんとして、それからニコッと笑顔になった。
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