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「油井さん、おはようございます」  営業所は二階建ての小さな建物で、駐車スペースが五台ほどある。知己のマンションからそれほど離れていなかったので、とりあえずは知己の自転車を借りて通勤していた。 「平沢さん、おはようございます」  出勤するとすでに支度をはじめている女性、平沢がお茶を運んできてくれる。  子供が手を離れたのを機に働きはじめ、パートを経て社員となったそうだ。小さな営業所なので経理とその他の事務全般を担っている。  平沢の他には美容課を統括する宮川を先頭に、美容部員が十二名ほど在籍している。しかし皆基本的に販売店へ直接出勤しているので、営業所には研修や会議のために、月に数回しか出社しない。  男性は全員営業で暁人を含めて三人。入社二年目の田代に加え、所長である小橋もしっかり数に入れられている。所長だからといって、ここでは椅子に踏ん反り返っていることはできないみたいだ。 「お茶、おいしいです。いつもありがとうございます」 「油井さんて、いつも丁寧ね。うちの子も油井さんみたいに育ったらいいのに」 「ぷはっ……えっ、僕ですか?」  思ってもみないことを平沢に言われ、お茶を吹き出しそうになる。 「そうよ。所長だって感心していたわ……その……」 「本社から飛ばされてきたわりには、腐っていないと?」
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