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 平沢とお茶を飲みながら他愛もない話をしていると、大きな音を立てて、小橋が階段を慌ただしく駆け下りてきた。 「お、おはようございます」 「おはよう。油井、今日は一件目、三井さんの店だったよな」 「はい、よろしくお願いします」 「わりぃ、それがちょっと都合が悪くなっちゃって……」  先程から二階の会議室から声が聞こえていたので、小橋が誰かと電話をしているのは気付いていた。 「ちょっと隣の営業所でトラブルだわ。三井さんのところだけど、一回挨拶してるから大丈夫だよな」 「は、はい……頑張ります」 「頼りねーかもしれないけど、田代も連れてっていいから。あいつ見た目だけはいいから、お客さんたちも悪い気はしないだろう」 「承知しました。ありがとうございます。お気をつけていってらっしゃいませ」 「おう、頼んだぜ」  営業所に配属されてまず驚いたのは、所長である小橋の負担がとても大きいことだった。  この営業所だけでなく、近隣数カ所の営業所の統括も行っている小橋は、今朝のような理由で呼び出されることも少なくない。  また、本社への出張などで月に数日取られるうえ、地元密着ゆえの冠婚葬祭への出席や挨拶周り、接待に近い飲み会など。それらに休日を取られることも多々あるという。暁人と入れ替わりに退職した男性も相当なベテランだったので、その分さらに小橋の負担は増えているはずだ。小橋自身はきつそうなそぶりなど、おくびにも出さないが。  そんな小橋の姿を見て、暁人も早々に腹をくくった。営業として配属されたからには、暁人は小橋の行っている営業の仕事をできるだけ自分に回し、小橋には所長でしかできない仕事を主にしてもらえたら――そう思いはじめた。
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