211人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうだよ、長らく誰も好きにならなかったって言っただろう?」
好きな人がいなくても、知己はそういうのをそつなくこなしているのだろうと、どこかで思っていた。
それにしても先ほど暁人があんなに乱れたことは忘れているんだろうか。自分もそうだけれど、知己も恋をするとベクトルが変な方向に向かうタイプなのかもしれない。
だが、そんな知己がとても愛おしかった。
「おい……なんで笑ってるんだよ、アキ。ひでーな」
「ごめん、知己がすごくかわいくて意外だったから……驚いただけ」
「なんかさらに恥ずかしいことになってる?」
「ううん……とても幸せだ、僕」
自然と言葉がこぼれると、きつく抱きしめられる。
「あーき」
「ん……?」
「幸せをもらっているのは、俺の方だよ、アキ」
今までの暁人なら、そんなことないと知己の言葉を一蹴しただろうが、今は素直に知己の言葉に酔いたい。
「そんなふうに言ってもらえるなんて思ってもみなかった……とてもうれしい」
「これからは、俺がアキにいっぱい幸せをあげるよ」
だからもうとっくに幸せなのになあとまた抱き合った。
「ところでやっぱりヘタ…………だった?」
「もう……」
やっぱりそこに戻るのかと、知己をかわいく思う。これは男のプライドみたいなものなのだろうか。
「もしひどくヘタクソでも、それが知己なら僕はとても気持ち良くなっちゃうんだろうけどね……」
「うん?」
「お世辞抜きですっごくよかったよ……」
悦すぎておかしくなるかと思った、と消え入りそうな声で伝えると、知己が真っ赤になった。

最初のコメントを投稿しよう!