第1章

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桜太の号令で帰ろうとしていた科学部だったが 「あっ」  急に楓翔が立ち止まって前方を指差す。 「どうした?」  一体何があったんだと全員が立ち止まった。しかし日差しに照らされる道しかない。人一人歩いていないのだから、外で部活をしている生徒は本当に大変だろうとも思えた。 「これ、これが逃げ水だよ」  楓翔の指が差しているのは、少し離れた地面だった。正門近くの道まで舗装されているのだが、その辺りがゆらゆらと揺らめいている。そしてそこに水があるかのような光があった。 「へえ。こういうのって、道路で起きるもんだと思ってたよ。普通の道でもなるんだな」  そんな感想を漏らしたのは芳樹だ。たしかに道路で起こるイメージが強い。 「道の色の濃さが関係しますからね。普通の道にこんな黒っぽいアスファルトやコンクリートは採用しないですよ」  楓翔は説明しながら視線を足元に落とした。この学校の通路は校舎の白色と対比させるためか黒っぽい色をしているのだ。しかし南向きにあって暑くなることが解っているのだから、もう少し白っぽい色でも良かったのではと思ってしまう。 「色が関係しているって、熱を吸収しやすいかどうかってことか?」  優我が屈み込んで訊いた。地表付近に手を翳すと熱気が伝わってくる。よく馬鹿な動画でやっているような道路で目玉焼きを作るという実験を試したくなるような熱さだ。 「そう。逃げ水っていうのは道路の地表温度が上がることによって空気の屈折率が変わるのが原因なんだ。だから温度が上がりやすい場所で起こる。道路は遮るものがないし黒っぽいから最適ってわけだ。まさしくこの道と同じだな」  楓翔はそう言って後ろを振り返った。ここが熱いのだから、学園長像の前の地表も熱くなっているはずだ。動く原因にはやはり逃げ水が絡んでいるのかもしれない。
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