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「あれ?」
スプリンクラーの作動が止まったので検証を再開しようと思っていたら、不思議なことが起こった。さっきまで揺らめいていなかった学園長像が揺らめいているのである。桜太は目を擦ってよく見てみたが、間違いなく揺らめいている。
「揺れてる?」
林田も寝不足のせいかと目を擦っていたが、現実に揺れているのだと解った。おかげで目をぱちくりと瞬かせる。
「そうか。これも気温差のせいだよ。逃げ水ばかり考えていたけど、銅像のある位置で起こるんだから陽炎が正解だったんだ」
嬉しそうに叫ぶのは楓翔だ。
「陽炎」
すっかり忘れていた夏の風物詩に、莉音はしばし呆然となった。こんな簡単なことに気づかないとはという思いで一杯だ。
「えっ?陽炎がどうして水を撒いただけで起こるんだ?」
原理が解らずに亜塔が訊いた。どうにも生物のことばかりで自然現象には疎いのだ。知識が足りない部分は仲間に教えてもらうというのは、この七不思議解明で何度も経験していることである。
「それはですね、スプリンクラーが作動したことで向こうの壁だけ気化熱によって冷えたのが原因なんです。陽炎には気温差だけでなく風の力も必要ですから。冷やされたために上昇気流が発生し、あの銅像の周りの空気が動いたんです。それで揺らめきがはっきりと見えたというわけですね」
解りやすい解説を楓翔がする。この七不思議で大きな成長を遂げたのは楓翔ではという感じさえする説明だ。
「ははあ。あの後ろの壁が白いおかげで、陽炎もしっかりと見えているってわけか。何だか陽炎を起こすためにあるようなスプリンクラーや道だな」
感心したように言う亜塔だが、それではっとなったのは他のメンバーだ。
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