扉を開けて

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時折り頬を掠める風が少し冷たいけれど、日射しは暖かみを増していた。 もうすぐ、あの震災から6年目の春が来る。 駅通りは復興も進み、元通りの街並みとはいかなくても、活気のある店舗や人の行き来が、随分と多くなった。 ぶらぶらとウィンドウ・ショッピングを楽しんでいた私は、春の訪れを感じさせる空をふと仰ぎたくなって、雑踏の真ん中で立ち止まった。 その、すれ違いざま。 何かに引き寄せられて、 五感全部が、震えた。 見覚えのある、濃いグレーのジャケット。 それを羽織る、背格好。あの匂い。 封じたはずの記憶が、堰を切って流れ出す。 弾かれたように振り返った先には、 同じように振り向いて目を見張る、忘れたつもりの、 彼が、立っていた。 周りの音がすべて、消えた。 彼のいない早春の季節は、あれからもう3回も巡ったというのに。 傍らのショーウィンドウに映り込んだ彼と私の姿が、3年前とちっとも変わらない、なんて。 なぜそんなことを一目で判断できてしまうのだろう。 忘れたつもりでいながら、私はずっと、 ――ずっと大切に、心に抱き続けていたのだと、 ――その時、気づいた。
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