扉を開けて

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二度目の冬。 任期も大詰めの彼は忙しく、役場に寝袋で泊まり込んだりする日が続いていた。 『雪道を通うのが面倒じゃけぇ』 彼はそう言ったけれど私は、 彼が私と会うのを避けているような気がしていた。 それでも、12月の私の誕生日には早めに帰宅するとの約束を取り付け、 久しぶりに会えるその日を、私はウキウキと指折り数えていた。 任期後、彼が帰郷しても、遠距離恋愛すればいい、と私は軽く考えていた。 事務所の仕事も面白くなり、ただ両親を手伝うだけではなく、資格を取って事務所の一翼を担いたいと思い始めていた私は、彼について行こうとまでは、考えていなかった。 でも近くにいられる今のうちに、早く彼とひとつになりたい、と思ってもいて。 彼の気持ちを一気に動かしたくて、私は無謀な決心をした。 よーし!!『決戦は誕生日』だ!! 決戦当日私は、事務所のクリスマスグッズの中から、自分が入れるほどの大きな布袋と、綺麗なピンクの幅広のリボンを拝借し、隠し持って彼の部屋を訪れた。 彼は私のネーム入りのバースデーケーキと、簡単な手料理を用意してくれていた。 大喜びでご馳走になり、私の一世一代のショータイムの時間がやって来た。 『良いって言うまで向こう向いてて』 私は袋の中にすっぽり入り込み、自分の首の所で袋の口を絞って、ピンクのリボンを大きな蝶々結びで括り付けた。 『ハイっ、こっち向いて~。 ジャーン! 私をまるごとプレゼント~っ!!』 袋ごとぴょんぴょん跳びはねる私に、彼は口をあんぐり開けて絶句した後、苦い顔を見せて俯いた。 『……お前、馬鹿じゃろ?』 『まあまあお兄さん、遠慮せず!』 『何でお前の誕生日にお前がプレゼントになっちょるんか? 百歩譲ってワシの誕生日なら解るけど』 そう言って、黙り込んでしまった。 爆笑してくれると期待していた私はアテが外れ、しょんぼりとその場に座り込んだ。 『ほれ、首解いちゃるけぇ、早う出ぇ。送って行く』 顔を上げてリボンに手を伸ばしかけた彼は、ハッと手を引っ込めた。 『まさかお前、袋の中は裸、とか言わんじゃろうの?』 『ぶっ……サスガの私もそこまでしないって』 『……』 彼が再び伸ばした両手は、リボンではなく、袋のままの私の両頬に届いた。 触れるだけのキスをくれた後、私を袋ごと抱きしめた彼は、独り言のようにポツリと呟いた。 『このまま持って帰ろうかのぅ』
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