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私は単純に嬉しくなって、茶化した。
『お持ち帰り一丁!
いつでもOKでーす』
彼は瞳を揺らして、私を見た。
『……軽々しく言うちゃ駄目じゃ、そねぇなこと』
もう一度私の唇を塞いだ彼は、どんどんそれを深くした。
ただでさえ袋詰めの私は、いつもと違う荒っぽい彼の唇に、息をすることもできなかった。
今までにない濃厚なキスに脱力している私の、
リボンを解き、布袋を剥がした彼の手は、
それだけでは止まらなかった。
その夜初めて、彼は私を抱いてくれた。
彼の腕の中で、今夜はこのまま泊まると駄々をこねる私に、彼は無理矢理服を着せ、送って行くからと部屋を追い出した。
後ろの荷台に私を乗せて、自転車をこぎながら彼は、ポツリポツリと話し始めた。
『震災派遣が決まった時のぅ、割と軽い気持ちで受けたんじゃ』
『でも実際こっち来て、ワシは恥ずかしゅうなった。
出会う人出会う人みんな、一生懸命生きちょる』
『ワシに出来ることがありゃあ何でもしたいと思うちょる』
『けどワシは所詮派遣のヨソ者じゃ。出来ることは限られちょる。
役場の中でも根本的なとこにゃ手を出せん』
『お前、土地家屋調査士の資格、取りたいんじゃろ?
親父さんお袋さん、喜んじょったで、一人娘のお前がやる気になって』
『お前はお前、ワシはワシじゃ。
領分がある。やりたいことも違う』
『お前は自分に今出来ることを見つけたんじゃ。頑張れや』
彼がどんな思いでそれを口にしているのか、その時の私には解らなかった。
珍しく彼が自分のことを話してくれるのが、ただ嬉しくて、私は茶々を入れずにずっと黙って聞いていた。
身を切るような風も、彼の背中に頬を埋めていれば、気にならなかった。
自宅の前で私を自転車から降ろし、彼は一瞬ためらうように視線をさまよわせ、意を決したように口を開いた。
『ラッピング、……可愛かったで』
『えっそう!? えへへ、我が人生における最高傑作!!』
『ふ……ホントお前、馬鹿じゃろ?』
彼は愛おしむような優しいキスをくれて、しばらくただ暖めるように、私を抱きしめていた。
そのあと、自転車に跨がって帰って行く彼が見えなくなるまで、私は手を振って見送ったけれど、
彼は一度も振り返らなかった。
それ以降、彼ははっきりと私から距離を置いた。
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