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(…さて、長話をし過ぎたな。私も急ぐとしよう。)
ハロルドは、また早足で廊下を歩いて行くのだった。
◇
所変わって幸助はというと、大の字のまま眠りこけていた。
「…なぁ、俺の上腕二頭筋を見てくれ…こいつをどう思う?」
寝言まで言い始める始末だった。
その横で、幸助により叩きのめされ倒れていた熊がゆっくりと起き上がろうとしている。眠りこけている幸助にたいし怒りに震えるが、先程のダメージが残っているのか上手く動けないでいたのだ。
やっとの思いで立ち上がった熊は、力を振り絞りその鋭い牙を幸助に突きたてようとする。
「…嬉しいこと言ってくれるじゃあないのッ。」
しかし、幸助がそんな寝言を呟きながら放った拳が熊の顔面を捉え、またも熊を吹き飛ばされた。
熊の巨体が地面に倒れたことによる地響きに幸助が飛び起きる。
「ッ?!」
目を覚ました幸助はすぐさま戦闘態勢をとるが、近くで伸びていた熊を見て目を点にする。
(熊とは距離を開けていたはずなんだけど、なんでこんなに近くまで…ハッ!!)
幸助は熊が近くにいたことに驚くが、それと同時にあることを思い出す。
実は幸助は寝相が非常に悪い。
以前、友人である山田君が幸助ともう数人とでお泊まり会を開いたことがあった。
その次の日、山田君含む友人全員が満身創痍で朝を迎えたのだ。何があったかというと、まず眠った幸助が寝言を呟きながら、隣で眠る友人に対してコブラツイストをきめていたのを皮切りに次々と犠牲者が増えていった。最終的には、眠ったまま町を徘徊し不審者と間違われそうになったのだ。
原因が分かり1人納得している幸助の耳に、水の流れる音が微かにだが聞こえた。
(水の流れる音ということは、川が近くにあるのか?行ってみよう。)
熊は放っておいて、そのまま耳をすませながら音を頼りに森の中を突き進んでいく。道中、幸助は大小様々な小枝を集めていた。
するとすぐ大きな川が見えてくる。川の深さは膝下程しかなく、魚が元気に泳いでいるのが見えるほど透き通っていた。
小枝を適当な所に置いた幸助はジャージの裾を上げると、靴を脱いで川に入っていく。そのまま腰を低くし、川底に目を向けたまま動かなくなる。動かなくなってから少しすると、幸助は腕を川底に向け目にも止まらぬ速さで差し込み、すぐに引き上げた。その手には、元気にうねる魚が握られていた。
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