1歩目-『筋肉が無ければ死んでいた…。』

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幸助が今行っているのは手掴み漁だ。 捕まえた魚は川岸に向け投げ、また同じことを繰り返した幸助は、数分後満足した顔で川岸に上がった。 川岸には、数十匹の大小様々な魚が積み重なっている。 それを確認すると、森で集めた小枝を利用して火を起こし動き始めた。火種を持たない幸助だが、大きめの枝に対して垂直に小枝を立てて両手で挟む様に持つ。そのまま超高速で擦り始めた。所謂きりもみ式と言われる火を起こす手法の一つである。 普段山にトレーニングという名の修行を行っている幸助にとって、この程度のサバイバルは朝飯前なのだ。 煙が出ると枯れ葉などを被せ少しずつ燃やしていく。細い小枝から火に焚べ、火が大きくなったところで枝を串代わりに刺した魚を焼く。 焼けた魚の匂いが辺りを漂いだした頃、茂みから何かが顔を出す。 先程、幸助に倒された熊だった。 警戒していた幸助だが、熊から敵意を感じられず代わりに腹を空かせているのが分かる。やれやれと思いながらも、熊にまだ焼いてない大きめの魚を差し出しながら、「食うか?」と聞いた。 「なんていうかさ、たまたまとは言えお前の多分縄張りに入り込んだうえにさ、寝てるの邪魔しちゃったからな。これでさっきのも合わせてチャラな。」 それに目を大きくした熊だったが、素直に差し出された魚を口に咥え静かに幸助の横で食べ始めた。幸助もそれから何も言わずに焼けた魚を口に運ぶ。 食べながらこれまでの事を振り返る。 まず、崖から落ち光に包まれ目覚めると見知らぬ谷底にいた。谷底から這い上がると、これまた異常に巨大な赤い熊に出会い逃走劇を経て戦闘。どうにか戦闘に勝利、今に至る。 (…今思うと小2、3時間くらいの間に色々あり過ぎだな。結論には早いけど異世界ってのもあながち間違ってないかもな。) ふと、横で魚を美味しそうに食べている熊に目を向ける。 (何回見てもこんなのが地球上にいたら、いろんな意味でやばいだろうな。まずテレビ沙汰だな。) そんなことを考えながら、何を思ったのか熊に話しかけ始めた。 「なぁ、人がいる所を知らないか?」 丁度魚を食べ終わった熊は驚くことに首を縦に振った。さらに、のそりと立ち上がるとこちらを見て、ついて来いとでも言うようにゆっくりと歩き始めたのだった。
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