1歩目-『筋肉が無ければ死んでいた…。』

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熊について歩いていた幸助は周りを見渡す。様々な生き物が木々の隙間から見えた。見るからに自分の知っている姿とは所々違っていた。 額に角を生やした白兎、尾が何本かある金色の狐の親子、上空を優雅に飛ぶ飛竜…などなど。 「…あー、うん。此処は異世界決定だな。」 恐らく熊との戦闘などで真面目に見れていなかったのだろう。流石に飛竜、所謂ワイバーンまで目にしてしまっては認めざるを得ない。疑惑が確信に変わった幸助は、熊が立ち止まったのに気づき自分も立ち止まる。 熊の目線の先には、森の開けた場所から白銀の鎧を身に纏う騎士風の集団が、こちらへ向け進行していた。 熊は明らかに威嚇をしている。そんな熊をなだめながら、脇の茂みに一緒に隠れる。 「騎士ってもう…どう見ても、ただ事では無さそうだな。変な事に巻き込まれて、最悪命に関わるような事にならないとも言えないから『今は』抑えろ、な?」 幸助は自分と熊に言い聞かせるように呟いた。 幸助達が隠れる茂みの横を騎士達が通り過ぎる際会話が聞こえてきた。 「…見当たらないな。他の隊からも発見の報告も来ないし。」 「最後の希望だってのに…最悪死体すら残ってなかったりしてな。」 そんな会話をしていた2人だが、後ろにいた女性騎士が睨めを効かせながら注意する。 「止めなさい。ただでさえ、時間が無いのに縁起でもないことを言うものじゃないわよ。喋る暇があるなら真剣に探しなさい。」 「…は、はい。」 「申し訳ありません、副団長。」 今の会話から誰かを探しているようだ。『最後の希望』、『時間が無い』と不吉な言葉があるが、自分では無いことを祈りながら通り過ぎるのを待った。 騎士達が困っているのはわかった。お人好しと言われている幸助だが、勇敢なことと無謀なことの違いくらいは理解している。それに彼が動くのは助けられる範囲での事で、それが『たまたま』多かっただけの話なのだ。自分の手に負えない事案については他者に任せている。 騎士達が通り過ぎたのを確認すると、熊と共に茂みから出る。 再び熊について歩き出すと、通り過ぎた騎士達が歩いて来た逆方向に進んでいることに気づく。 (なるほど、騎士さん達が向こうから来たんなら、街か村か分からないが何処かに辿り着くかもな。) その後も、白銀の騎士を見つけては隠れるの繰り返しをしながら、ついに森を抜けたのだった。
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