1歩目-『筋肉が無ければ死んでいた…。』

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一通り考え事をした後、ひとまずこの谷底から抜け出そうと考えた幸助は、そばにそびえ立つ断崖絶壁を登り始めた。 登るといったが、語弊があるため言い直すと、幸助は『壁蹴り』という方法で谷底から瞬く間に地上へ上がって行く。 普通の人間ならば壁沿いに進み出口を探すが、この男に『普通』はあり得ない。 思い立ったが最後、即行動あるのみ。 壁蹴りによる谷底からの脱出は成功し無事抜け出した幸助は、目の前の緑生い茂る森が目に入り安堵するが、あるものに気づきその場から動かずじっとする。 何故ならば目の前に熊がいるからだ。 それが普通の熊ならば幸助にも簡単に撃退できるが、体長4、5メートル位はありそうな体躯の赤い熊が目の前にいるのだ。流石の幸助も固まらざるを得ない。 幸いな事に熊は眠っていて幸助に気がついていなかったため、そのまま静かにこの場を後にしようと森の方へ歩みを進める。 だが、こういう時決して上手く事は運ばない。 森まで後少しというところで足元の小枝を踏んでしまう。小枝を踏んだことで出た音に驚きながら、幸助がゆっくり振り向いた先に例の巨大な赤い熊が起き上がっていた。 眠りを妨げられた挙句、自分の縄張りに浸入したであろう幸助に対して恐ろしい形相で唸り声をあげていた。 (…神よ、僕が何をしたっていうんだ。) 次の瞬間、幸助は迷う事なく森へ全力で走り出す。 流石というべきか、凄まじい速さで森へ入り無我夢中で走り続ける幸助。 走っている最中、幸助は一切後ろを振り向かなかった。何故なら、木々を薙ぎ倒すような轟音と巨大な地響きが聞こえているからだ。 十中八九、先程の熊だろう。
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