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「く~ッ、何処までついてくるんだッ!」
そんな叫びも虚しく、熊は彼の速さについて来ており、更に最悪な事に幸助の近くまで迫って来ていた。
「チョッ、速ビベロッ?!」
ついに熊に追いつかれた幸助は、避ける間も無く体当たりをされ、まるでトラックに轢かれたかのように吹き飛ぶ。
吹き飛ばされた幸助は、木々を薙ぎ倒し巨大な岩に体を叩きつけてから停止する。
フラフラとした状態で立ち上がるが、体は何ともなく、良くて擦り傷が出来ているくらいだった。
彼も人間だ。例え周りの者からバグキャラ、チート野郎と言われても、幸助自身が危険に遭えばタダではすまない。今の自分の状態に驚きを隠せなかった。
(…驚くのは後にしよう。まずは、目の前のことに集中しないと。)
逃げていても埒があかないと気づいた幸助は、迫りくる熊と向かい合い拳を握る。
ゆっくりと拳を構えると同時に熊へ急接近する。突然の事に熊も驚くが、ナイフの様に鋭く尖った爪による攻撃を繰り出し牽制をする。幸助は、それを冷静に身をかがめる事で躱し、懐に入り込むと鳩尾辺りに一発拳を叩き込む。幸助からの攻撃を受けた熊は苦しそうな鳴き声をあげ、さらに殴られたことによりその巨体が浮き上がる。
攻撃が効いている事が分かった幸助は、この機を逃さぬかの様に畳み掛ける。一発、また一発と叩き込まれる鋭い一撃に熊もなす術無く受け続ける。熊も抵抗を試みるが、攻撃した先からそれを避けられ幸助からのカウンターを食らわされる。
「いい加減に……倒れろッ!!」
その言葉と共に、熊の顎に強烈なアッパーを放った。ついに熊は、その巨体を浮かし轟音を立てながらゆっくりと背中から倒れる。
熊が倒れた後も、しばらくの間は緊張を解くこと無く警戒する。
立ち上がる様子もないと安心した幸助は、近くの木陰に腰を下ろし一息つく。
「…ハァ、一時はどうなるかと思ったが何とかなるもんだな。」
何とかなると言うが、それは幸助だからと知り合いならば口を揃えて言う事だろう。
しかも、彼らが通った森はまるで台風にでもあったかのように悲惨なものになっていた。
幸助自身にそれを気にする余裕がないのか、地面に大の字で倒れ込む。
「まぁ、何にせよ鍛えといて良かった。あれは、流石に………筋肉が無ければ死んでいた。」
そんなことを呟く幸助の横で、ピクリと動き出す影に幸助は気付かない。
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