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◇
時間は遡り、幸助が谷底で目覚める少し前のこと。
とある大広間で、複数の怪しげな者達が声を荒げながら何かについて話していた。
皆同じ黒い法衣に身を包み、床の幾何学模様を囲むように立っている。周りには、紙や灯篭などがまるで突風にあったかの様に転がっていた。
「何故じゃ!何故、誰も現れんッ!」
愕然とした様子で、老人が叫ぶ。
「落ち着きください、今度は失敗していないはずです。」
老人とは反対に落ち着いた様子で話し始めたのは、同じく黒い法衣のまだ10歳程の少年だった。
「儀式を開始して少ししてから中央に光が現れその中に一瞬ですが、誰かがいたのを見ました。」
「何ッ、ほ、本当か?」
少年はうなづくが、少し暗い顔で続ける。
「はい、ただ原因は分かりませんが、召喚時に此処にではなく、何処か別の場所に飛ばされたのではないかと思います。そう遠くはないでしょう。」
少年の言葉に老人も含め、周りの者達も慌て始める。
「…ならばッ!!」
そんな中、黒い法衣では無く白銀の鎧に身を固めた男性騎士が一歩前に出る。
「今すぐにでも捜索を開始いたしましょう。放っておけば、その者の命が危ない。そして、我々も…。」
その言葉に冷静を取り戻した老人が、騎士に向かって話し始めた。
「…た、確かに。ならば、君達の部隊に捜索を頼みたい。人員については必要最低限城の警備が薄くならなければ連れて行ってくれて構わん。だが、なるべく目立たぬよう頼みたい。」
「分かっております。では、さっそく部隊を編成次第出発いたします。それから、その者の特徴を教えていただけますか?」
騎士が先程の少年に向け問いかける。
「たしか、黒髪の…身長が高かった気がするから大柄だと思います。」
それを聞くと少しの会話後騎士は敬礼し、老人達に背を向け大広間を後にする。
「やっと掴んだチャンスを無駄にしないよう僕らの方も頑張りますか。」
「…そうじゃな。後は彼らが無事に連れ帰ってくれることを神に祈るばかりじゃ。」
2人の呟きを最後に大広間はまた慌ただしくなったのだった。
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