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苦しくて、目を開けた。
さっきより少し暗い。
流れているメロディは5時を知らせるもの。
思ったよりうんと眠りこけて居たんだと、少年は公衆トイレから出た。
ちらほらと子供達が公園から出て行く。
夕暮れの空に飛行機雲がひとすじ、西の空へと走っていた。
あかねいろ、と呟く。
唯一覚えている、「お母さん」から教わった色。
「ねえ、昨日も居たよね?」
自分の今の気持ちと正反対の、明るい声が真後ろから聞こえた。口紅を埋めた時に近づいてきた少女だと声で分かった。たしか、夢奈と言っていた。
煩わしいのと体が重たいので振り向かないでいると、夢奈はわざわざ少年の前まで回り込んで顔を覗き込んだ。
「こんにちは! それ、お化粧するやつだよね?」
手に握りしめていたコンパクトに、夢奈は「きれーい」と目を輝かせている。
女の子はみんな憧れるものなのか。こんな小さなものに。
「こんな物、無ければいい。……こんな物!!」
「あっ!」
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