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熱のこもる瞳で辺りを見回した。
ゴミの袋はそのままなのに、何かが足りない。
……あぁ、分かった。母親の物が減っている。
服も、小物も、今朝少年が片付けた化粧品も、一気に無くなっている。
どうしてだろうと思うけど、痛む頭ではそれ以上は考えられなかった。それよりも洗濯物を、と少年はベランダへ向かった。
そこには母親の服が干されている。
良かった。母親がいた証がここにある。
しかし、いつものように洗濯ハンガーを持ち上げようと腕を上げた途端、ベランダと部屋の段差で転んでしまった。
指先が痺れて感覚がない。息もずっと苦しいままだ。
やっとの思いで、ベランダから母親の部屋の中へ体を引きずる。
そういえば、まだ水を飲んでなかった。フワフワと揺れる視界と逆に、体は水を含んだ真綿のようにズシリと重い。
苦しい、苦しいよ。助けて。
「……おかあ、さん」
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