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からからにひび割れた唇から出た言葉は、少年の小さな叫び。
あかねの差す空は、少しづつコバルトの宵がしみていく。
体が麻痺して、苦しさも感じなくなった。
まぶたが重い。
このままこの部屋で寝てしまったら、母親が帰って来た時に怒られてしまう。
母親が、帰って来たら……
「……ぁ……」
少年は小さな声を漏らした。
極端に減った母親の荷物の意味を、少年は気付いたのだ。
少年は震える体を動かし浴槽へ向かった。
母親は帰って来ない。
でも、もし、帰って来たら、母親の部屋に居たら怒られる。いつものように隠れて見えない場所に居なければ。浴槽に居たら、いつの間にか帰ってるかもしれない。
浴槽の扉は閉まっていた。
湯船の蓋も閉じていた。
乾燥した湯船に、たっぷりの水が張ってあるような幻想が見えた。
湯船へと力尽きた体を投げ出すと、どぷんと深い深い水の底へと沈んでいく。
体を丸め、少年は目を閉じた。こぽこぽ聴こえる音は、胎内の音なのか。
生まれる前の、羊水の中で過ごした日々のような、無の世界へーー。
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