夢見る貘は揺籠で眠る

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   ーー「龍樹、起きなさい。またこんな所で寝ちゃって」  柔らかな手のひらが、少年の肩を優しく撫ぜていた。目を開けるよりも先に、みそ汁の香りが鼻腔をくすぐる。  ぼやけた視界には微かに微笑む口元が見える。  「こんなに冷たくなっちゃって、大丈夫? さ、ご飯食べよう」  キッチンの方から、「龍樹、早くおいで。お父さんと食べよう」と別の声もする。  この場所に当たり前のように居る自分に戸惑い、浴室から様子を伺い見る。  テーブルに座る男性が少年に歯を見せて笑う。  「今夜は龍樹の好きなハンバーグだぞ」  カチャカチャと食器の立てる音と、シンクの水音。テレビの中の観覧客に合わせるように、男性も笑っている。  あたたかな世界。  幸せの世界。  でも少年は知っていた。   これは、夢だ、とーー。
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