80人が本棚に入れています
本棚に追加
「オオーー! バカ亭主、お気の毒! アンタ、人でナシだー!」
「もう人じゃナイもーん、死者だモーん!」
「間違いナイ! ま、イっか!」
「ま、イっかーー!」
ワハハ、イッヒヒヒ、と墓場に大爆笑が沸き起こる。
こうして死者たちは、生前の自分を赤裸々に明かして宴の肴にするのだ。
「オイラなんテなー! 宝くじで1億ドーラ当たって以来、1ドーラでも金が減るのが怖くなってサ。飯も食わずに金勘定してたら、ツイに餓死しちマったー!」
話に割って入ったのは、チープの呼び名を持つアンデッド。
「ヒャハハハ、さすがチープ! 大金手に入れて狂ったー!」
「ホントに怖かったんダ! まあイイか!」
「ま、イっかーー!」
みんながまたドッと笑う。僕も笑う。死者はそうして笑うだけ。
痛みも哀しみも憂いも、肉体と未来があってこそのモノだからね。
「……みんナ生きていた頃はイロイロあったのね。ねえハング、私アナタのお話を聞きたいワ」
腕の中から、目玉のない眼窩がズイッと覗き込んでくる。
「ん? 僕の人生なンて陳腐なものダヨ」
「生きてる時は、誰モがその陳腐な人生に必死にナルものよ。恋多きアナタの過去を聞かせて」
「僕は恋多き男じゃなかったヨ。……そう呼べるのは一度だけ」
僕はまた歯をカタカタ鳴らし、夜空に浮かんだまぁるい月を見上げた――。
最初のコメントを投稿しよう!