流れ星

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流れ星

 流れ星を見つけたら、消えてしまう前に願いごとを三回唱えるとそれが叶う。  迷信だが、昔からよく言われているし、子供の頃からの条件反射で、今でも流れ星を見ると、つい願いをかけてしまう。  でも当然のように、願いごとを三回唱えるなんてできなくて、望みが叶うことはなかった。…ただそれは、あくまで望みが『悪いこと』でない場合だ。  たとえば欲しい物があって、それが手に入りますようにと願ってもその願いは叶わない。成績が上がりますようにとか、運動会の前に、リレーで勝てますように、とか願ってもダメだ。  なのに、テスト前に、ライバルの成績が下がりますようにとか、自分の好きな子に他の奴が告白するという話を聞いて、そいつがフられますようにとか、そのテの願いは不思議と叶うのだ。  自分にとってはよい結果が出る訳だから、ラッキーと思わなくもなかったけれど、悪い願いが敵った場合は、確実に不幸になっている人間がいるのだ。  そう考えると何だか罪悪感が湧いて、流れ星を見かけた時、例え叶わなくても、俺は普通の願いだけを唱えるようにしていた。  …でも今日は、気持ちがどん底まで沈んでたんだ。  不況の煽りでリストラされ、同じタイミングで彼女にもフられた。  まさに泣きっ面に蜂で、何件も酒場をはしごして浴びるように酒を飲んだ。  その帰り道、ふらふらと歩きながら見た夜空に、一筋の流れ星が走るのが見えた。  こんな状況だ。願うなら、新しい職をと、彼女とやり直したいとかだろう。でも俺の気持ちは荒んでいて…荒み過ぎていて、ヤケクソノ言葉が口をついた。 「こんな世界、なくなっちまえ!」  酒で呂律の回らない口調だったのに、それを三度唱えきるまで、ずっと流れ星は夜空を滑り落ちていた。  そして。  最悪の願いを口走った俺の視界に、もう流れ星とは呼べない、巨大な隕石が映った。  ああ。こんなのでも、悪い願いは叶うんだなぁ…。 流れ星…完
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