第1章

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「早く働かなきゃと思えば思うほど、どうしたらいいのか分からなくなる。自分が何をしたいのか、何ができるのか何も分からないんだ。・・・いや、あんたの言いたいことは分かっている。何を遣りたいとか、んなことを考えてる場合じゃないってこと。一人じゃないんだ。子供をちゃんと育てる為にも、取り敢えず仕事を見つけて生活の基盤を作ることが一番必要だってこと位、いくら俺だって分かってるんだ」 男は黙ったまま圭太の話を聞いていた。 「思ってるだけで行動が伴っていないってことも、分かっている。自分だって何をやっているんだって思ってる。今のままじゃ本当にどうしようも出来なくなって、親子共々ホームレスの仲間入りか最悪、首を括る羽目になる・・・いい年をした大人が情けないよな。でも、一歩も動けないんだ」 一気に喋った。喋った後、圭太は誰かに聞いて欲しかったんだって事に気付いた。どうしようもない位甘ったれた自分の気持ちや、未来への不安、今の現状。呆れられてもいい。見知らぬ誰かだからこそ、言葉に出来たのだと思うから。 フッと空気が動いた。俯いた圭太に影が差したような気がした。そして、何だ?と思う間もなく力強い腕が体に巻き付いて来た。
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