第1章

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「あの公園は、仕事で良く利用していたんだ。度々お前を見掛けていた。お前は俺が不審者だと思ったみたいだが、俺はお前が不審者だと思ってたんだ。だから注意して見ていた」 その言葉に、圭太は目を瞠った。誰かに見られているとは思ってもいなかったのだ。 「公園のベンチで昼日中の平日に、いい年をした男がボーッと座り、溜め息を吐きながら子供たちを見ている。・・・充分怪しいだろ?」 自分の行動を振り返った。風太を遊ばせていたとはいえ、傍目にはそう見えたのかもしれない。そう思い頷いた。 「公園で遊ばせているお母さん達に話を聞くと、お前は風太と言う子供の父親で、散々浮気を繰り返した挙げ句、社長の娘に手を出して会社を首になり、女房はそんなお前に愛想を尽かし、付き合っていた男と逃げたんだと教えてくれた」 圭太は恥ずかしさの余り顔を俯けた。あの公園には、風太の友達がいた。風太にねだられて良く行っていたのだけれど、良く考えれば分かる事だった。 仲良くなった子供同士。その親もまた、仲良くなるだろう可能性を。 もしかしたら、何でも話せるくらい仲良くしていたママ友も居たのかもしれない。その事に考えが至って、圭太はひどくいたたまれなくなった。 その話が事実だったから。 自業自得とはいえ、詳細を見知らぬ人間に知られていたと知ったから。 「・・・仕事は決まったのか?」 「関係ないだろ?」 俯いたまま圭太は呟き、腕を振り払う。今度は簡単に振り払えた。 「まあな」 男は肩を竦め「確かに関係ないな」と嘯く。 「仕事がないなら収入もねぇんだろ?これから子供を育てて行かなきゃいけねぇのに、どうすんだ?色事師にでもなって女に貢がせんのか?」 似合ってるがな。呟かれた言葉に顔を赤くする。そんなつもりはないが、考えなくもなかったから。図星を言い当てられたような気がして、穴を掘って隠れてしまいたい心境に陥った。
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