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ボシャッボシャッ
海釣りに嵌り、夜釣りに嵌った。勢い余って船舶免許も取って、たまにこうして馴染みになった貸し舟屋で船を借りて一人で少し沖に出て。
釣れるように、撒き餌をする。
考えているようで、何も考えなくて良い、そんな曖昧な時間が好きだった。夜の海は曖昧だ。
暗闇にとけて、どこからが海で、空で、足場なのか。電気を消すと何もわからなくなる。尤も、こんな風に穏やかに海が凪いでいるときにしか出来ないけれど。
ほんの数分、暗闇に浸り船の電気を付ける。
今日はあまり釣れなそうだ。
「帰るか…」
暗い海に灯りを付けて、貸し舟屋に戻る。
「お、早いね」
「海に出たは良いけど、気分が乗らなくてさ」
「そんな日もあるよな」
本当は一人客には貸さないらしい店主と仲良くなり、こうして夜の海に一人浮かぶ贅沢を楽しむ。
そうして、毎日仕事に行く英気を養うのだ。
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