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離婚は出来ない、でも子供が欲しくて堪らない。そんな俺の願いを全部飲み込んで、愛してるから叶えてあげると笑った彼女。
呼び鈴を連打すれば、驚いた顔をして彼女が出てくる。思わず思いっきり抱き締めて、ありがとうを連呼した。
大事に大事に。細心の注意を払って、俺たちの子供を身籠った彼女を大事にした。膨らむお腹が愛しくて、人生で一番幸せだった十ヶ月。あまりに幸せ過ぎて、夢を見ているようだった。
幸せ太りか、俺の体重も少し増えた。反面、妻は少しやつれた。だから毎日、栄養のありそうなお土産を買って帰った。数ヶ月もすれば妻の腹回りもだいぶふくよかになった。
「おめでとう」
どうやら勘違いしているらしい近所の奥さんに言われる度に、違うんですよ妊娠してるのは妻じゃないんですよと言いそうになるけど我慢して。
そうして彼女が出産した。
「産んでくれてありがとう」
幸せ過ぎて涙が止まらない。ベッドの上で泣き過ぎと笑う彼女に、心の底から感謝した。
経過は母子共に良好で、予定通り5日で退院した。彼女の住んでいたアパートは僕たちの子供が過ごすには適していないという理由で、業者に頼んで彼女の入院中に引っ越しをさせた。防音が効いていて、けれど僕の出入りが録画されるような防犯カメラもない、とても素晴らしいアパートを貸りたのだ。
「こんなに素敵な所…」
涙ぐむ彼女の頬にそっと触れる。
「だって君には本当に感謝しているからね。ありがとう」
「ううん、愛してるわ」
「そう、俺は愛していないけど」
「え?」
彼女の目が見開かれ、唇が震えている。信じられないだろうね、散々愛してるって言ったから。あれは全部嘘だよごめんね。渾身の力を込めて、彼女の首を絞めた。
彼女が息絶えたのを確認して、携帯から電話を掛ける。
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