第一章

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 無言で、アパートの鍵を開けると、そこには見知らぬ男が座っていた。 「どっ、泥棒?」  でも、こんななんにも取る物もなさそうな部屋に侵入するなんて、あやしいし、まさかストーカーとか?  優は、黒目がちな幼い容貌や男としてはあまり高くない身長のせいで、知らない男につきまとわれたりすることがややあった。今回もその類かと、警察を呼ぼうと思っていると、 「あやしい者ではありません。あなたをお迎えにあがりました。」 「お迎え?」 「詳しくは、私の主から説明させていただきます。」 「主?・・・ていうか、あの、あなた、人間じゃないですよね・・・」  優を迎えに来た、と言う男は平安時代の貴族みたいな恰好をしており、切れ長な目をした知的な顔つきだ。髪は黒く、長く伸びたそれを、後ろで結ってある。そして背中には、黒い大きな翼がはえている。彼の態度からして、コスプレでふざけているようにも見えない。  警戒する優とは反対に、男は穏やかな笑みで質問に答える。 「あなた方からすると人間ではないかもしれませんが、私たちの国では、この姿で普通の人間です。」 「そう・・・なんですか。なんか、失礼しました。それで、迎えって、なんなんです?どこに連れていくつもりですか?」 「行けばわかります。さ、参りましょう。」 「ちょ・・・、急に言われても困ります。僕に拒否権はないんですか?」  名前も知らない男にいきなり拉致されるなんて、とんでもない。すぐに逃げ出せるよう、じりじりと玄関ドアに向かってあとずさる。  男はにっこり笑ったまま言葉を続ける。 「拒否権も何も、あなたは天涯孤独の身。あなたがいなくなって困る人間がここに居るのですか?」 「なっ・・・!なんであなたにそんなこと・・・。」  優はキッと睨みつけるが、男は笑顔のままだ。 「失礼なことを申したのなら、謝りますが、それは事実でしょう?」 「・・・」 「天野優、十八歳。生まれてすぐに捨てられた為、孤児院にて育てられる。性格は暗くて悲観的。本日、高校を卒業して、某ホテルの厨房にて就職が内定している。友人、恋人は皆無。ちなみに、今までの人生で一度も恋人はいない。違いますか?」  どこで調べたかしらないが、その通りだ。  恋人が一度もいたことがないことまで、調べられているなんて、正直気味が悪い。
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