第三章

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「では、今日はこのへんで終わりにしましょう。」 「はい。ありがとうございました。」  今、羽黒に宮中でのルールや出入りする殿上人の名前をたたきこまれている。  ここへ来て一週間経った。ここへ来た翌日から、優はこの国の人々と同じ衣服を着せてもらった。  今日は、鶯色の直衣で、春らしくて気に入っている。優のどの直衣も光人が優の為に用意してくれた物だ。  今までプレゼントを貰ったことがなかったから、優は初めはどうしていいかわからず、遠慮しようかと思ったが、断ればきっとがっかりするんだろうな、と残念そうな彼の顔を思うと断りきれず、光人の厚意を受け取ることにした。  光人が用意してくれた直衣は、身に付けるとお香の良い香りがして、肌ざわりも良い。女房達にもよく似合うと褒められた。 (僕のことを思って、この直衣を用意してくれたのかな・・・。プレゼントをもらうって、嬉しいな・・・。)  こんな風に、胸がぽかぽか暖かくなるとは知らなかった。 (断らなくて良かったなぁ・・・。) と、優はしみじみ思った。 「優君は飲み込みが良いので助かります。教えがいがあります。」 「いえ・・・、そんな。羽黒さんが一から詳しく教えてくれたおかげです。」  本当にその通りだった。異世界のルールすら知る由もない優には、わからないことがわからない状態だった。それなのに、羽黒は嫌な顔一つせず、丁寧に教えてくれた。 「一つ聞きたいのですが、優君はなぜそんなに熱心に勉強するのですか?・・・君がなぜこの仕事を引き受けたのか、不思議に思いまして。」  今聞かれて、優はあらためて考える。 「何でだろう・・・。あの、このお仕事を引き受けた時に、光人様が、『お前が来てくれて良かった。』って、言ってくれたんです。それがすごく嬉しくて・・・。たとえ、それがささいな仕事だとしても、それでも僕にしかできない事なら、それでいいんです。だって、今まで生きてきた中で、誰かにいてくれて良かった、って言ってもらったことがないから。」
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