168人が本棚に入れています
本棚に追加
優は、親に捨てらた劣等感から人間不信になってしまい、自分に行為を寄せてくれてもそれを信じることができず、友人どころか恋人すらいない。 いつか自分なんか嫌いになって捨てるくせに、いつもそう思っていた。
小さいころは、大人達がそんなことはない、と説得していたが、頑なに否定し続けると、いつしか説得する大人も消え、気付いたらひとりぼっちだった。
誰からも愛されずに育ったせいで愛情というものがわからず、人を愛する感情が抜け落ちていることは自覚していた。だから、友人や恋人がほしいと思うことはあったが、特定の誰かと仲良くなりたいと思えないせいで、今までひとりぼっちできてしまった。
「なんでそんなことまで知ってるんですか?興信所か何かですか?」
「ここには、私の友人がたくさんいるので、教えてもらったまでです。」
男はにこっと笑って背中の翼をバサリとふるわす。
(翼?ってことは、鳥が友達?)
「そんなことより、さあ、もう日が暮れる。私は夜目がきかないんです。さっさと行きますよ。」
「えっ!?えっ、ちよっと!」
男はそう言うと、優をわきにかかえ、窓から外に出る。黒く大きな翼が、グワッとひろがり、大きな音を立ててはばたく。瞬く間に空へ舞い上がり、どんどん高度をあげていく。下は気を失いそうで見れない。
茜色の空に、何かキラッとと光る穴が見える。どうやら、あの光に向かって飛んでいるようだ。
「入りますよ。しっかりつかまってください。」
そう言われて、優は思わず男の腰に両手でしがみついた。
(こんな高さで落ちたら死んじゃうよ!)
まばゆい光に目を開けていられず、ぎゅっと閉じると、突然、何かに吸い込まれる感じがした。その、ものすごい空気の圧力に耐えきれず、優はいつの間にか気を失っていた。
(まぶしい・・・。もう朝?あれ、ここ僕の部屋じゃない・・・)
優は昨日起きた出来事を思い出し、ガバッと起き上がる。
辺りを見渡すと、ふわっと木のいい香りがした。この部屋全てが木でできているからだろう。板張りの床、壁、天井、扉、柱、全てが木製だ。まるで神社の中にいるみたいだ。
優は、その部屋の、床の上に敷かれた分厚い畳の上に寝かされていたようだ。
最初のコメントを投稿しよう!