わたしという存在

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たとえば大変お慕い申し上げている方がいたとして、自分の理想の全てを詰めこんだような人を、どうしてわたしのような何も持たない人間が想いを伝えることができるだろうか 特別容姿が端麗なわけでもない 特別頭が優秀なわけでもない 特別運動が秀でているわけでもない あの人と比べて、一体どこに見劣りすることのない箇所があるのだろうか? あの人との接点なんて、ただクラスが同じということだけなのだ 有象無象の内の一人 ありきたりで平々凡々、並みの並みで地味な女子生徒 どうあがいたところでヒエラルキー上位を独走するあの人と釣り合うはずもなく、わたしは今日も教室の隅っこの方で本を読みながら自分だけの世界に浸るのだ ・・・・・あの人が将来素敵な女性を娶り、子どもをもうけて幸せな未来を歩むことを祈りながら 「プロローグ」 その華々しい未来をあの人が歩むためには、わたしという存在が非常に邪魔となってくる わたしが思い描くこの物語には“わたし”という存在があの人の側にあってはならないのだ 同窓会に交じるモブであれば構わないのだが… なぜならわたしのことを誰よりも理解しているのは、わたし以外にはいないのだから わたしは知っている わたしという存在が、どれほどまでに醜くて汚ない存在なのかということを こんなにも汚ない存在があの人の側にあれば……考えただけでも吐き気をもよおしてしまう あの人はとても綺麗な存在なのだ わたしはあの人ほど綺麗なものを見たことがない 容姿が、というわけではない 誠実で冷静、けれど醒めきっているのではなく内に秘めた激情を持っている すぐにわかった ああ、この人はとても優しくて綺麗な人だ、と だがあまり心配するほどのことでもないだろう あの人とわたしでは住む世界がそもそも違うのだ あの人の視界の中にわたしが映る日は永遠にこないのだから それほどまでに、あの人とわたしの住む世界は違う ・・・あなたは有象無象のことなど気にしてはいけない、気にしてはならない わたしはあなたのことをこれから先も恋し続けることでしょう けれどあなたはそれに気づくこともなく幸せな未来を歩んでください それがわたしにとっての幸せへと繋がるのだから .
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