わたしという存在

3/8
前へ
/8ページ
次へ
そもそもなぜわたしがあの人に恋をしたのか? それについての答えなど至極簡単なものだ わたしはあの人に一目惚れした 当たり障りのない理由でこの高校を志望し、なんの夢もなくただ進学してきた四月の頭の頃 うだつの上がらない日常からの脱却なんて到底不可能なのだとすでに理解していた このまま何もない日常をくり返して、退屈でつまらない毎日を死ぬまで続けていくのだと・・・・・・信じてきた けれど驚いたことにわたしはあの人に出会った、何もないはずの日常に波紋が落とされたのだ 衝撃的だった 何もない日常をくり返すはずだったわたしの世界は、外の世界からやってきた見ず知らずの他人によってあっさりと塗りかえられてしまったのだ 誰もが振り返る精悍な顔立ちに怯むくらい高い上背、文武両道ではあるがそのことを周りにひけらかすこともない 後者のことを知ったのはクラスが同じになった後ではあったが、恥ずかしいことにわたしは前者のことであの人に一目惚れしたのだ そこらにいる有象無象の女子生徒と同じようにあの人に恋をしたのだ だが、おかしなことにわたしはあの人に二度惚れてしまった 自他ともに認める面食いであるわたしが精悍な顔立ちをしているあの人を好まないはずはなかった それはわかっていたのだ けれどまさかあの人の内面にまで恋をするとは思ってもみなかった、本当にあの時は想定外のことばかりが起きてしまったのだ 「珍しいよね 香織が人を好きになるなんて」 「人を感情を持たないロボットみたいなていで話を進めないでくれない?」 「だってあんたが人を好きになったとかどんな人がタイプだとか聞いたこともないし ましてやそんな話しになったこともないじゃない」 「色恋沙汰に興味がないだけで恋に落ちる落ちないはまた別の話しでしょう」 頭でわかっているだけで恋に落ちなくなるのであれば、世の中に痴情のもつれなんぞでの事件なんて起きるはずもないだろう 恋というものは、厄介なことに本能でするものなのだ 頭でするものではなく心でするものなのだ 防ぎようもないテロリズムのようなものだ、どうしようもない .
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加