わたしという存在

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「これからしばらく宜しく頼むぜ」 「え、・・・あ、はい・・・ ・・・・・・こちらこそ」 突然かけられた言葉に反応が挙動不審になってしまったことに関しては、気付かれないことを祈るばかりだ どうか、この動揺が声を震わせて貴方には届きませんように ・・・なんて、退屈でつまらない日常にとっくの昔に作り方すらも忘れてしまった表情(かお)では、この想いなど誰にも届くはずもない 現にほら、あの人は何事もなかったかのようにわたしのことなど忘れて既に机に向かっている 近い席のクラスメートに声をかけることなど、一般的なコミュニケーション能力のある人にはよくあることだ、…わたしは一度たりとてそんなことをした記憶はないが 気にしていても仕方のないどうにもならない状況に呆れの息を漏らしていつも通り本を取り出す そういえば借りていた本の返却期限が今日までだったような気がして台本板を確認すると、ああ、やっぱり思った通りだ 昼休みを利用して図書館に向かう ここ最近は隣の席に頻繁に女子生徒が集まりだす始末で非常に迷惑していたところだ、ちょうど良い あの有象無象の女子生徒の中にあの人が思い描く意中の人は現れるのだろうか? もし現れたとして、あの人は一体どういった人を好むのだろうか? あの人が幸せになれるのであれば誰だって構わないのだが、あの人を幸せに出来ない女なんて・・・・・・消えてなくなれば良いのに けれどもあの人との将来を約束されるのはあの人が選んだ人なのだ 誰を選ぼうと、あの人が心を惹き付けれてあの人自身が望んだ相手なのだ わたしごときモブがそんなことを考えたところで何の意味も為さないというのに、飽きることなく思考を埋めるそれに可笑しな気持ちになる わたし自身のことではないのに、どうしてわたしがこんなにも悩んでしまうのだろうか? 恋とはなんと厄介なモノなのだろう こんなにも思考を他人に埋め尽くされて、今にも塞き止めていた筈の想いを垂れ流してしまいそうになるほど苦しいというのに、その苦しみすら慕わしく思えてしまうだなんて どうやらわたしの病はかなり重症であるらしい もはや治すことも出来ないところまで来ているだなんて笑えない冗談だ 「(・・・お慕い申し上げております、いつも、心の底では・・・)」 .
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